第5回 2019/5/9
- 講師:須谷 尚史
DNA修復
変異
DNAは非常に安定な化合物だが、複雑な有機分子なので通常の細胞内の条件下でも自然変化することがあり、それが修復されずに残ると変異に結びつく。
細胞内で起こる正常な化学反応の結果生じるDNA損傷には以下のようなものが挙げられる。(主要なものだけ挙げた。)
DNA損傷 | 化学反応 |
---|---|
脱プリン反応 | 加水分解 |
脱ピリミジン反応 | 加水分解 |
シトシンの脱アミノ化 | 加水分解 |
5-メチルシトシンの脱アミノ反応 | 加水分解 |
8-オキソG | 酸化 |
\(\mathrm{O}^6\)-メチルグアニン | ニトロソ化ポリアミン、ペプチドによる非酵素的メチル化 |
中でも、成体中で自発的に起きるDNA損傷のうち、特に重要な2つの反応は、以下の「脱プリン化(糖リン酸骨格から塩基が取れる。)」と「脱アミノ化(シトシンがウラシルに変化)」である。
他にも、5-mCなどは有名である。
5-mc(メチル化シトシン)
哺乳細胞でのメチル化DNAとは、この修飾を指す。また、細胞内で起こる正常な化学反応の他に、外部の化学物質や放射線に曝されることによって生じる変異も存在する。例えば以下の画像は紫外線によって生じるチミンダイマーであり、隣り合った2個のピリミジン塩基の間にならどこにでも生じる。
修復
これらに対して、細胞にはDNA修復の仕組みが複数あり、損傷の種類によって異なる酵素を利用して修復する。
- 塩基レベルの損傷の修復
- 塩基除去修復(BER)
- ヌクレオチド除去修復(NER)
- DNA複製と修復
- 損傷乗り越え修復(TLS)
- ミスマッチ修復(MMR)
- DNA鎖切断の修復
- 非相同末端再結合(NHEJ)
- 相同組換え(HR)
塩基除去修復 | ヌクレオチド除去修復 |
---|---|
Base Excision Repair | Nucleotide Excision Repair |
DNAグリコシラーゼによって始まる。図では、ウラシルDNAグリコシラーゼがDNA内で偶発的に脱アミノされたシトシンを除去する。 このグリコシラーゼが作用した後、塩基の欠落した糖リン酸がAPエンドヌクレアーゼとホスホジエステラーゼの連続反応によって切除される。 次に、ヌクレオチド1個分のギャップをDNAポリメラーゼとDNAリガーゼが埋める。 |
細菌では、複合酵素系がピリミジン・ダイマーのような損傷を感知すると、損傷の両側に切り込みを入れ、DNAヘリカーゼがその領域を全部除去する。 細菌の除去修復系は、図示するように12ヌクレオチド長のギャップを残すが、ヒトでは損傷DNAが見つかるとヘリカーゼ出動してその部分のDNA二本鎖をほどき、次に切り出しヌクレアーゼが損傷の両側を切断するので、生じるギャップは約30ヌクレオチドになる。 |
フォトリアーゼ:チミンダイマーの修復を行う酵素
フォトリアーゼは、可視光の紫色や青色を利用し、ヌクレオチド除去修復によってピリミジン二量体の相補DNAの修復を行なっている。なお、フォトリアーゼは哺乳動物では機能していない。
ミスマッチ修復(NMR)
DNAポリメラーゼには3'→5'エキソヌクレアーゼ活性があり、プライマー端の塩基対形成していない残基や不適切な塩基対を形成した残基を切り取る。
さらに、校正エキソヌクレアーゼも見逃す複製の誤りを正す校正系も存在する。これは、非相補的な塩基対がうまく合わないためにらせんに歪みが生じることを利用して校正を行う不対合鎖の選択的修復系(strand-directed mismatch repair system)である。
ここで、この校正系は「歪みのある塩基対」を認識できるが、「どちらがミス(複製側)なのか」を知る必要がある。
大腸菌の不対合校正系は、DNAの特定のA残基のメチル化を目印に鎖を識別する。"GATC"という塩基配列中のA残基には全てメチル基が付加されるが、これは、新たに合成されたDNA鎖にAが組み込まれてしばらくしないと起こらない。
したがって、メチル化されていない"GATC"を切除すれば良い、ということになる。
DNA二重鎖切断(DSB)が生じたときの2つの修復経路
DNA損傷の中でも特に危険なのは、二重らせんの両方の鎖が同時に壊れ、修復に使う無傷の鋳型鎖がなくなってしまう場合である。
このような切断は、放射線照射・複製の誤り・酸化剤・細胞内のある種の代謝産物によって生じ、これを修復しないでおくと染色体はすぐに小さい断片へと分解してしまい、細胞分裂の際に遺伝子が失われる。
この損傷に対処すべく、異なった機能が進化してきた。代表的な2種類を以下に挙げる。
最も単純なのは「切断された末端を並べてDNAリガーゼによって再びつなぐ」非相同末端連結(nonhomologous end joining)(上図A)で、通常は連結部位のヌクレオチドがいくつか失われる。
二本鎖切断の修復方法で最も精度が高いのは、新たに複製されたDNAでの二本鎖切断の修復で、姉妹染色分体を鋳型に使う場合(上図B)(したがって、DNAは複製されたが細胞は分裂する前、の場合が多い)である。
この反応は相同組換え(homologous recombination)の一例である。修復過程は複雑だが、簡単に言うと「切れたDNA二本鎖と鋳型となる二本鎖が、損傷した2本の鎖の一方が無傷の相補鎖を修復の鋳型にできるように"動き回る"。」
損傷乗越え複製(TLS)
高精度のDNAポリメラーゼは、損傷したDNAに出会うと停止する。
しかし、細胞のDNAがひどく損傷し、これまでの修復機構では対処しきれない状況になると、損傷通過ポリメラーゼ(translesion polymerase)と呼ばれる、通常は鋳型とならないような"傷"の部分も複製できる予備のポリメラーゼを動員し、損傷を通過して複製を行う。
ただし、このようなポリメラーゼは精度が低く、正確性に欠ける。
余談
遺伝子ターゲティング
狙い:相同組み替え 哺乳細胞では、NHEJ経路が優勢なので、狙った部位での組み替えが難しい。一方出芽酵母とかはガバガバ
CRISPR/Cas9
狙ったところを切る事ができる酵素(Cas9) Cas9 は RNA(guide RNA)と結合する事ができる。 → ホモロジーサーチをRNAがしてくれる。 → 特定の配列を狙って切る事ができる。
Quizzes
次のDNA損傷はどのようにして修復されるか?(ヒト細胞における主要な経路で答えよ)- 脱アミノ化したシトシン→塩基除去修復
- チミンダイマー→ヌクレオチド除去修復
- 二重鎖切断→非同期末端再結合/NHEJ
チェックポイント
細胞は、DNAに損傷が生じている時に修復が終了するまで細胞周期の進行を抑制する仕組み(チェックポイント)を持っている。
上図は細胞周期制御系の概観で、この図から細胞周期制御系の中核をなすのが一連のサイクリン-Cdk複合体であることがわかる。
チェックポイントには、
- DNA損傷チェックポイント
- DNA複製チェックポイント 未完了の複製を検知。
- スピンドルチェックポイント 中期赤道面に並んでいない染色体を検知。全部の染色体が赤道面に並ぶまでM期後期に入らない。
などがあり、細胞周期の進行に適切な条件が整っているかを様々なタイミングで監視している。
Glossary
Words | Meanings |
---|---|
Base excision repair | |
Nucleotide excision repair | |
Translesion synthesis | |
Mismatch repair | |
Homologous recombination repair | |
Non-homologous end joining | |
Checkpoint | |
ATM/ATR, Chk1/Chk2 | |
p53 | |
Mad2, Cdc20 |
Quizzes
# | Question | Answer |
---|---|---|
1 | Explain how a deaminated(脱アミノ化) C is repaired in human cells. 人間の細胞において、脱アミノ化したCはどのようにして修復されるのか。 |
Uracil DNA glycosylase recognizes and eliminates a deaminated C, or uracil, by cleaving the N-glycosylic bond. The formed AP site is processed by AP endonuclease, leaving a single-stranded DNA gap. It is, then, filled by DNA polymerase and ligase. AP site; apurinic/apyrimidinic(プリンがない/ピリミジンがない) site. DNAグリコシラーゼによる塩基除去修復(BER) |
2 | The frequency of CG dinucleotids in the human genome is significantly lower than in E.coli and significantly lower than expected by chance. Explain why. 人間のゲノムにおけるCGジヌクレオチドの頻度は、E.coliや偶然の確率よりも有意に低い。これはなぜか。 |
In human, the majority of CG nucleotides is methylated on the C. Spontaneous deamination of methyl-C produces T. Because T is a natural component of DNA, this deamination is hard to be repaired, resulting in conversion of CG to TG over time. This explains why CG nucleotide is underrepresented in the human genome. 5'-TG-3'/3'-GC-5' を認識してTを除去する酵素もあるのだが、効率が悪い。 例外的にCGが多く見られるゲノム領域がCpGアイランド。メチル化されていないのでTへの変化が進まない。 前提: 哺乳類は、CG配列を認識してそのうちのCをメチル化する酵素を持つ。さらに、メチル化したCは脱アミノ化によってTになり、これは修復されない。 E.coliより低い理由: E.coliはCGを認識してメチル化する酵素を持たないので、CGがTGに変化することはない。 偶然より低い理由: メチル化されたCは脱アミノ化によってTとなり、これは修復できないので、CG配列は減っていく。 |
3 | Decide the following sentence is true/false, and explain why. "Only the initial steps in DNA repair are catalyzed by enzymes that are unique to the repair process; the latter steps are typically catalyzed by enzymes that play more general roles in DNA metabolism." 「DNA修復の最初の段階だけが、修復機構に特有の酵素によって触媒される。その後は、DNA代謝においてより一般的な働きをする酵素によって触媒される。」 |
True. The later steps tend to be catalyzed by enzymes such as helicases, DNA polymerases, and ligases whose activities are common features of DNA metabolism. |