第3回 2019/4/23
有糸分裂期(Chapter.4,16,17)
M期の進行の詳細
名称 | 説明 |
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前期(Prophase) | 複製した染色体はそれぞれ密着した2つの姉妹染色分体からなり、凝縮している。核の外側では、複製され離れ離れになった2個の中心体の間に、有糸分裂紡錘体が構築される。 |
前中期(Pro-metaphase) | 突然の核膜崩壊で始まる。染色体は動原体で紡錘体微小管に接着し、活発に動き始める。 |
中期(Metaphase) | 染色体は紡錘体極の中間にある紡錘体赤道面に整列する。動原体微小管が姉妹染色分体を紡錘体の両極に付着させる。 |
後期(Anaphase) | 一斉に姉妹染色分体が分離して、娘染色体の2組が形成される。1組ずつが、面する紡錘体極にゆっくり引かれていく。動原体微小管が短くなり、紡錘体極も離れていく。この双方の過程が染色体を分離させる。 |
終期(Telophase) | 染色体1組ずつが別の極に到達し、脱凝縮する。新たな核膜がそれぞれの周囲に再構築され、2個の細胞核形成が完了し、有糸分裂が終了する。細胞質の分裂は収縮環の形成で始まる。 |
細胞質分裂(Cytokinesis) | アクチンとミオシンの繊維でできた収縮環によって細胞質が二分割される。収縮環が細胞質をくびり切り、それぞれ1つの核を持つ2個の娘細胞ができる。 |
M期に起こる様々な事象とそこで機能する分子たち
M期では、タンパクキナーゼM-Cdkが様々な標的タンパク質をリン酸化することで、有糸分裂の初期に起こる様々な現象を起動させる。
ラミンのリン酸化と核膜崩壊
核内膜の核側にある核ラミナ(nuclear lamina)は、核ラミン(nuclear lamin)と呼ばれるタンパクサブユニットが結合しあって形成された網状構造である。ラミンは特別な種類の中間系フィラメントタンパクで、重合して二次元の格子(網目)を作っている。
網目の構造を利用して核膜の形態と安定性を維持している核ラミナは、核内膜の膜貫通タンパクとNPCとの両方に接着することで核膜に固定されている。核ラミナはクロマチンとも直接結合しており、クロマチン自体も核内膜の膜貫通タンパクと結合している。内膜のこのようなタンパク質は、ラミナとともにDNAと核膜の間の構造的なつなぎとなっている。
有糸分裂の際にはM-Cdkによってヌクレオポリンとラミンが直接リン酸化されることによって核膜の崩壊が開始される。なお、ラミンが脱リン酸されるとこの過程は逆走する。
コンデンシン
コンデンシンは5つのサブユニットからなるタンパク複合体で、環状構造を取り、ATP加水分解のエネルギーを使って、姉妹染色分体の凝縮と分離を促す。(染色体凝縮を引き起こす。)試験管内でDNA分子の巻き具合を変えることができ、このDNA分子を巻く作用が有糸分裂時の凝縮に重要だと考えられている、
コンデンシンのサブユニットがM-Cdkによってリン酸化されると、DNA分子を巻く作用が活性化されることがわかっており、これが、有糸分裂の初めにM-Cdkが染色体の再構成を起動させる機構の1つではないかと考えられている。
細胞骨格
細胞骨格(cytoskeleton)と呼ばれる繊維系は細胞が形を変えたり動いたりする機能を支えている。
細胞骨格の様々な機能を担うのはアクチンフィラメント(actin filament)、微小管(microtubule)、中関径フィラメント(intermediate filament)という3つのタンパク繊維ファミリーであり、それぞれ独自の力学的な特徴と動態と生物学的役割を持ちながら、基本的特徴のいくつかは共通している。
- アクチンフィラメントは細胞表面の形を決め、細胞の移動に必要であり、また、1個の細胞をくびり切って2個にする。
- 微小管は、膜で囲まれた小器官の位置や細胞内輸送の方向を決め、また、細胞分裂時に染色体を分離する有糸分裂紡錘体を形成する。
- 中間径フィラメントは細胞に機械的強度を与える。
これらの細胞骨格繊維のどれにも何百という補助タンパクが働いて、これらの繊維どうしや繊維と他の細胞内要素とを制御し連結させている。
微小管
微小管はチューブリン(tubulin)というタンパク質の複合体である。α-チューブリンとβ-チューブリンというよく似た球状タンパク2個が非共有結合によって固く結合した二量体が、同じ向きに一列に積み重なっている。これを、プロトフィラメントという。
微小管のプロトフィラメントを作るサブユニットは全て同じ向きに並んでおり、プロトフィラメント自体も同じ向きで整列しているので、微小管格子自体にもはっきりと構造的な極性がある。マイナス端にはα-チューブリンが、プラス端にはβ-チューブリンが露出している。
チューブリン二量体は細胞質内に漂っており、このチューブリン二量体が繋ぎ合わされて微小管が長くなっていく。遊離しているチューブリン二量体にはヌクレオチド(GTP)分子1個が結合しており、GTP分子をもつチューブリン二量体は互いに結合していく性質をもっている。そうやってGTP分子をもつチューブリンが繋ぎ合わされると、微小管の末端部分にGTPキャップという構造をつくり、微小管は伸長され続ける。
しかし次のチューブリンが結合する前に、自身のGTPをGDPへと加水分解する事があり、そうなるとチューブリンの結合は不安定になり、脱重合(=バラバラ)の方向に向かい微小管は縮小していく。脱重合によってバラバラになったチューブリン二量体は、重合していたGDPをGTPに変換して、伸長中の微小管の材料として再び使われることになる。
このように、微小管には「チューブリンの重合と脱重合を繰り返し行なえる」という動的不安定性(dynamic instability)があり、これが微小管を伸縮させたり、細胞分裂時には紡錘体として組み替えられるということを可能にしている。
キネシン
微小管は、モータータンパクを用いて細胞内で積荷を輸送したり、様々な機能を果たしたりしている。
微小管を使って移動するタンパクには、キネシン(kinesin)とダイニン(dynein)という2つの主要な種類がある。
キネシンは軸索中で、膜で囲まれた小器官を細胞体から軸索末端へ微小管のプラス端方向に向かって運ぶ。一方のダイニンは、微小管のマイナス端方向に向かう。
有糸分裂の中心にある染色体分離は、あらゆる真核生物で有糸分裂紡錘体(mitotic spindle)という複雑で見事な構造体が実行する。
有糸分裂紡錘体の核となるのは二極性をもつ微小管の並びである。微小管のマイナス端は紡錘体の2つの極を目がけて集まり、プラス端は2つの極から放射状に広がっている。
微小管 | 役割 |
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極間微小管(interpolar microtubule) | もう一方の極からの微小管のプラス端と相互作用し、紡錘体の中間域で逆平行に並ぶ。 |
動原体微小管(kinetochore microtubule) | それぞれの姉妹染色分体のセントロメア(centromere)にある動原体(kinetochore)という大型タンパク構造体に結合する。 |
星状体微小管(astral microtubule) | 極から外へと放射状に広がって細胞皮層と接触し、細胞内で紡錘体にしかるべき配置をとらせている。 |
有糸分裂紡錘体の機能は、多くの微小管依存モータータンパク(キネシン関連タンパク、ダイニン)が主に担う。主要なものは、以下の4つである。
モータータンパク | 役割 |
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キネシン-5 | モータードメインを2つもち、それらが紡錘体の中間域にある逆平行の微小管のプラス端同士と相互作用する。この2つのモータードメインは、微小管のプラス端に向かって動き、逆平行の2つの微小管を滑らせて紡錘体極の両極を引き離す。 |
キネシン-14 | マイナス端向きモータータンパクであり、モータードメイン1つと近接する微小管と相互作用できるドメインを持つ。それらは微小管中間域で逆平行の極間微小管どうしを架橋し、両極を内側に引っ張る力となる。 |
キネシン-4とキネシン-10 | クロモキネシン(chromokinesin)ともよばれるプラス端向きモータータンパクであり、染色体腕に結合し、染色体を極から(極を染色体から)引き離す。 |
ダイニン | マイナス端向きモータータンパクであり、結合したタンパクとともに、細胞のさまざまな場所で微小管を組織する。ダイニンモーターが微小管のマイナス端に向かって移動することにより、紡錘体極は細胞の皮膚の方に引っ張られ、両極に分離する。 |
なお、微小管の動態に影響を与える薬剤が多数知られており、細胞分裂の阻害剤として使われている。
- パクリタキセル(タキソール):微小管を安定化
- ノコダゾール:チューブリンの重合阻害剤
- コルヒチン:チューブリンの重合阻害剤
動原体
二極性を持つ微小管列の形成後、紡錘体形成においては第二の重要な段階として、微小管の列と姉妹染色体の付着が起こる。紡錘体微小管は動原体(kinetochore)で各姉妹染色分体に付着する。
動原体は、染色分体のセントロメア領域にできる、巨大で多層のタンパク質構造体を指す。
# | 説明 |
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A | 多くの動物細胞で前期の終わりには、紡錘体極は核膜の反対側に動いている。この時、両極間の微小管は重なりながら平行に並ぶ。 |
B | 核膜が消失すると、姉妹染色分体は紡錘体極を核に放射状に伸びる微小管の動的で多数のプラス端に対し露出することになる。大抵の場合、初め、動原体はこの微小管の側部に付着し、染色体腕は紡錘体内部から外へ押し出され、腕が微小管のどう原体への近接を妨げるのを阻止する。 |
C | 結局、側面で姉妹染色分体が付着し、紡錘体の外側に環状で並ぶ。ほとんどの微小管はこの環に集中し、紡錘体内部は空く。 |
D | 最終的に、動的な微小管プラス端が動原体に先端でつながる形で付着し、安定化する。 |
E | 微小管の先端でつながる形で両核と結ばれ安定化し、二極性付着が完成する。さらに多くの微小管が動原体へ付着し、10~40個の微小管からなる動原体繊維(kinetochore fiber)が作られる。 |
後期の分離の際、姉妹染色分体はそれぞれ細胞の反対側に移動しなくてはならないので、有糸分裂紡錘体の異なる極と結ばれなければならない。
これには、張力を感知することで付着が適切かを識別し、不適切であれば修正する、というメカニズムを用いているらしい。
ここまでふりかえり
Question | Answer |
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M期を構成する6つの時期とは? | 前期/前中期/中期/後期/終期/細胞質分裂 |
染色体凝縮を引き起こす複合体の名称は? | コンデンシン |
紡錘体(スピンドル)を構成するタンパク質の名称は? | チューブリン(α/β チューブリン2量体) |
M期脱出の分子メカニズム
ユビキチン
タンパク質複合体であるSCFユビキチン連結酵素(SCF ubiquitin ligase)は細胞周期の各時点でさまざまな標的タンパクのリシン残基に結合しユビキチン化する。
ユビキチン分子の鎖が標的タンパクに付加されると、プロテアソームはそれを識別し、すみやかに分解する。
このように、あるシグナルに応答して特定のタンパク質がすみやかな分解の対象となる方法は、細胞周期の促進に使われる。
APC/C
ユビキチンは5つのサブユニットがまとまってCの字の形をしているが、ユビキチンを活性化するE1(ユビキチン活性化酵素)についた活性化ユビキチンは、次にE2(ユビキチン結合酵素)の1つのシステイン残基へと映される。なお、E2はE3(ユビキチン連結酵素)と複合体担っており、それがユビキチンを(選択的に)付加する。
なお、APC/CはSCFの遠縁であり、M期後期特異的なE3である。
コヒーシン
コヒーシンは4つのサブユニットからなるタンパク質複合体である。
# | 説明 |
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A | Smc1とSmc3はより合わせコイルであり、片方の端にATPアーゼドメインがある。 |
B | 2つのサブユニットScc1とScc3がATPアーゼ頭部ドメインを結び付け、環の形を作る。 |
C | 姉妹染色分体を取り囲んでいる。 |
上記のように"接着"タンパク質であるコヒーシンが存在するため、有糸分裂紡錘体が引っ張っても簡単には姉妹染色分体は分離しない。
中期-後期遷移で姉妹染色分体の接着が突如、一斉に解消するのはコヒーシンの複合体が分解するからである。
この過程は、APC/Cが抑制性のタンパク質であるセキュリン(securin)を分解(ユビキチン化と破壊)することによって始まる。後期の前にセキュリンはセパラーゼ(separase)というプロテアーゼに結合しその活性を阻害しているが、中期の終わりにセキュリンが分解するとセパラーゼの抑制がとかれ、セパラーゼは姉妹染色分体を接着させているコヒーシン複合体のサブユニットScc1を切断できるようになる。すると、紡錘体の引力によって、姉妹染色分体は分離する。
Glossary
Words | Meanings |
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Prophasem prometaphase, metaphase, anaphase, telophase | |
Lamin | |
Condensin | |
Microtubules, Kinesin, Dynamic instability | |
Spindle, Kinetochore, Bi-orientation | |
Ubiquitin, Proteasome, APC/C | |
Cohesin | |
Separase, Securin |
Quizzes
# | Question | Answer |
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1 | Order the following light micrographs into the correct sequence, and identify the stage in M phase that each represents. | |
2 | Explain "bi-orientation" of mitotic chromosomes. Use the following words; kinetochore, spindle, cohesin. 有糸分裂染色体の「2方向性」について説明せよ。 |
Biorientation is the state where a pair of sister kinetochores are attached to microtubules extending from opposite spindle poles. Cohesin protein complex holds the pair of sister chromatids together, and resists the opposing pulling force of the microtubules. 染色体の2方向性とは、姉妹染色体の動原体に反対側の紡錘体極から伸びてきた微小管が接合した状態である。コヒーシンタンパク質複合体が姉妹染色体を固定し、微小管の引っ張る力に抵抗する。 |
3 | Describe what happen at molecular level when a cell enters anaphase in mitosis. Use the following words; cyclin, cohesin, APC/C M期の後期には分子レベルで何が起こるか。 |
APC/C activated and promotes specific degradation of cyclin (of M-Cdk) and secu期間rin. Securin degradation leads to activation of separase protease, which in turn results in cleavage of cohesin and initiation of chromosome segregation. APC/Cが活性化され、M-Cdkのサイクリンとセキュリンの減少を引き起こす。セキュリンはセパレースの阻害サブユニットなので、セキュリンの減少はセパレースの活性化を促し、それによってコヒーシンは分解され染色体分離が始まる。 |