第7回 2019/8/2 3限
- 講師:伊藤隆司
- 参考書:現代生物科学入門1:ゲノム科学の基礎
- 参考書:ゲノム医学 メディカルサイエンスインターナショナル
フェノーム解析
Forward genetics
- 突然変異体(Saturation mutagenesis)を作りたい。
- 戻し交配によって、劣性変異も表現系に現れるようにする。
- マイクロサテライト解析などの連鎖解析によって変異を同定。
ただし最近は、「表現系に出ていなくても変異は入っている」のだから直接遺伝子を調べれば良いのでは??
Reverse genetics
- 遺伝子ノックアウト
- 相同組み換えによる遺伝子破壊
- 主に微生物
- 遺伝子ノックダウン
- RNA干渉(siRNA/shRNA)
- 主に多細胞生物
定量的増殖解析
- マイクロタイタープレートを用いて様々な条件下で液体培養を行う。
- 成長曲線を分光学的に記録する。
遺伝子ごとにユニークな配列でタギングすることで、タグ配列が破壊株のIDを示すバーコードになる→同定ができる。
したがって、バーコード付き破壊株集団のサバイバルゲームを行い、結果をマイクロアレイで定量的に測定することで、適合度の定量化が可能に。
また、他の変異株と同時に増殖させることで、競合による微妙な表現型の検出も可能になる。
Chemical Genomics
この時、Guilt by Associationに基づけば、様々な遺伝子変異と化合物の存在下で増殖(適合度)を調べ、適合度(感受性・抵抗性)を指標に「破壊した遺伝子」と「化合物」の両方をクラスタリングすれば、遺伝子機能と同時に化合物の作用点も推定可能である。
Guilt by Association
- ノックアウト(ノックダウン)した表現型が似てれば、遺伝子の機能も似るだろう(分子機構的な証拠ではなくて、あくまで状況証拠)
- 表現型の特異性が高くないと有用ではない
- 増殖遅延
- 作用機構不明の向精神薬Xに対して高感受性
- 全部調べないと有用ではない
- 機能未知遺伝子Aを破壊するとXに対して高感受性
- 破壊するとXに対して高感受性になるのは20遺伝子
- 20遺伝子の半分は機能既知の筈で、細胞骨格関係だったら遺伝子Aも薬剤Xも細胞骨格関係ではという予測が可能に→全部調べないから部分も分からない。
合成致死性
合成致死性(synthetic lethal)とは、単独遺伝子欠損では細胞や個体に対する致死性を示さないのに、複数の遺伝子の欠損が共存すると致死性を発揮する現象のこと。
合成致死性のモデルは2通り考えられ、 - 生存機能を調整している並行する必須経路(A→B→C と X→Y→Z)の両方に突然変異(機能不全)が起こった場合 - 重複した必須遺伝子(相同性あり)に突然変異(機能不全)が起こった場合
が挙げられるが、このうち前者の場合、逆に言えば同一遺伝子(ex.X)と合成致死性を示す遺伝子群(ex.A,B,C)は共通経路を構成する可能性が高いと言える。
したがって、 - \(a\) という遺伝子に変異を入れた(機能不全にした)個体(薬剤 \(A\) に耐性あり) - \(b\) という遺伝子に変異を入れた(機能不全にした)個体(薬剤 \(B\) に耐性あり)
を掛け合わせて「\(A,B\) 両方の薬剤に耐性のある遺伝子が出現するか?」を見ることで、「\(a,b\) が合成致死性を示すか?」がわかる。
合成ゲノミクス
- NGS
- あらゆる生物のゲノムを高速に読める
- エピゲノム・トランスクリプトーム・プロテオーム解析が可能に
- CRISPR/Cas9
- あらゆる生物のゲノムを高速に書き換えられる
- フォノーム解析が可能に
- 超並列核酸合成
- 新しいゲノムを計算(設計)して合成
ゲノムを読む時代から書く時代に!!
The Genome Project-Write
Synthetic Yeast 2.0
合成ゲノムを作る手法
染色体一本を仕上げる:Megachunk assembly
制限酵素による切断、および連結によって3~6個のチャンクから組み立てられる。
仕上げた染色体を一つの株に集める:Endoduplication intercross
SCRaMbLE
Synthetic Chromosome Recombination and Modification by LoxP-mediated Evolution.
SVを誘導して進化させやすい合成ゲノム
究極のiPSC
- 変異が起こりにくいがん遺伝子
- 危険なCpGホットスポットは同義コドンに置換する
- ゲノム不安定性を起こすような反復配列は除く
- 多重化したがん抑制遺伝子
- 発言量を1/10にチューンしたTP53遺伝子を10コピー持ってた方が安全?
- 移植で拒絶されない細胞表面
- ウイルスに侵入されない受容体
オーミクス
ゲノム科学の流れ
- ゲノム科学の誕生
- ヒトゲノムプロジェクト:生物学史上初の巨大科学
- ゲノム科学の進展
- 比較ゲノミクス:生命進化の謎を解き明かす
- 機能ゲノミクス:生命システムの動作原理を探る
- ゲノム科学の新潮流
- 個人ゲノミクス:個性の理解と生命の倫理
- エピゲノミクス:氏か育ちか-遺伝子と環境の接点
- メタゲノミクス:超有機体としての生命システム
- 合成ゲノミクス:ゲノムの編集・設計
オーミクスの特徴
- 生命システムを構成する要素の網羅
- 部品リスト
- 出演者リスト
- 要素間の関係性・相互作用の全貌解明
- 回路、シナリオ:ネットワークの視点
- データ駆動型・発見型・仮説生成型の研究スタイル
- 仮説に拘泥されない計測と計算による発見と仮説生成
- 全ゲノム配列決定→遺伝子発見→機能予測
- 特定の遺伝子・タンパク質ではなく、全体を調べる
- 全体を調べるには、新しい方法論が必要
- 全体を調べた結果の解析・解釈には、計算機の力が必要
- 計算機の活用には、既存知識の構造化が必要
- ネットワーク全体(システム)を明らかにすることで、逆に各パーツの意味もわかる
- システムとしての特性も見えてくる
オーミクスの意義
- 従来型研究を加速するインフラの提供
- 個人の勲章ではなくて、コミュニティの資産
- 汎用性のあるデータ
- 従来型研究では手が届かなかった未踏領域の明示
- 新規遺伝子、機能推定不能遺伝子
- 我々の知識の限界↔︎生物の奥深さ
- オーミクス的なアプローチや発想の普及
- 従来型研究の中でのオーミクスデータ生産は普及
- データシェアリングの精神は…まだまだ??