第2回 2019/8/1 2限
- 講師:伊藤隆司
- 参考書:現代生物科学入門1:ゲノム科学の基礎
- 参考書:ゲノム医学 メディカルサイエンスインターナショナル
比較ゲノミクス
ヒトゲノムだけ決まっても意味がなく、比較することでわかること、例えば
- 進化系統的には遠いが共通:普遍性
- 進化系統的には近いが相異:多様性
があるので、他の生物ゲノムも調べられている。
- 実験モデル生物のゲノム
- 大腸菌
- 酵母
- 線虫
- ハエ
- シロイヌナズナ
- マウス
- 進化的に興味深い位置にある生物のゲノム
- 立襟鞭毛虫
- ホヤ、ナメクジウオ
- オボッサム、カモノハシ
- ネアンデルタール人、チンパンジー
配列の比較
- 相同性(ホモロジー)検索:配列アラインメント
- 相同遺伝子(ホモログ)
- オルソログ: 共通祖先に存在した遺伝子が、種分化後も保持されている関係
- パラログ: 種分岐以降に遺伝子重複によって生じた関係
- シンテニー(Synteny):他生物種ゲノム配列と類似している領域。
ヒトゲノムの特徴
- 無駄が多い
- ゲノムの50%は「動く遺伝子」の残骸
- アミノ酸配列をコードしているのは、全体の1.5%
- 遺伝子は細かく分断されている。
- ヒトゲノム中の分散型反復配列:レトロトランスポゾン
- Copy and Paste
- LINEs
- SINEs
- Retrovirus-like elements
- Cut and Paste
- DNA transposon fossils
- Copy and Paste
ヒト型のゲノム戦略
- 遺伝子重複による進化(大野 乾):
実際に重複遺伝子の割合と生息環境多様性には正の相関がある。
- ひとつは今を生きるために温存
- もうひとつは将来のために冒険→新しい遺伝子
- 分断戦略(エクソン-イントロン構造)
- 状況に応じて遺伝子内で様々な組み合わせを用いる。(オルタナティブ・スプライシング)
- 進化の過程で遺伝子間で様々な組み合わせを試す。(エクソン・シャフリング:イントロン内での組み換え)
細菌型のゲノム戦略
- ゲノムをコンパクトにまとめる:増殖を高めて集団としての多様性を保つ
- 遺伝子の水平移動(horizontal gene transfer):遺伝子(群)を他の細菌からゴッソリ取り入れる。
- 大腸菌遺伝子の1/8,藍藻(光合成細菌)の1/6は水平移動
- 大腸菌K12は4.64Mb、0157:H7は5.53Mb
- 水平移動は系統的距離とは関係ない。
- 同じ環境に生育するもの同士で遺伝情報を交換する。
系統関係
- 「ホヤ・ナメクジウオ・メダカ」という並びだと考えていたが、実際は「ナメクジウオ・ホヤ・メダカ」だった。(ゲノムの解読により、フェノタイプに惑わされない系統関係の理解が可能)
- ヒトとチンパンジー
- DNA配列の違いは \(1.23\)%
- 配列が完全に一致する遺伝子は\(1/6\)
- 何がヒトをヒトたらしめているのか?
- ヒトに向かう系統で"超進化"した遺伝子(ヒトに向かった系統でのみ配列が大きく変化した遺伝子)は?→生物種間でマルチプル・アラインメント
- HAR1
- HAR(Human Accelerated Regions)に変異が入ると自閉症につながるという報告も:link
- ヒト特異的パラログが大脳皮質を拡大?
個体間の多様性
多様性 | 意味 |
---|---|
SNP(Single Nucleotide Polymorphism) | 塩基が置換 |
Indel(Insertion and deletion) | 挿入または欠失(どちらを基準にするか決められないのでまとめた呼称に) |
Inversion,Translocation | 均衡型 逆位 |
CNV | 不均衡型・コピー数多型 |
Large deletion | 大型欠失 |
Mobile Element Insertion | ME挿入 |
Copy Number Variation (CNV)
- コピー数が異なるゲノム領域
- ゲノムの \(5\)%(\(>1000\) 遺伝子)
- 人種による違い
- 疾患罹患性との関与
- CCL3L1: Copy数が少ない程AIDSに罹り易い
- 16p11.2 593kb領域: 自閉症
- 体細胞モザイクの可能性
- 一卵性双生児間でも見られる→もともと受精卵は一個で二つに分かれた後にコピー数が異なる、というモデル。
SNIP
一塩基多型。ヒトのゲノムDNAの約30億個の塩基の並びは、全ての人間で同じではなく、約1000塩基に1個程度異なっており、これが多様性を生んでいると考えられている。
HapMap計画
ハプロタイプはブロックで伝わるため、ひとつが分かれば他の伝わり方もある程度は推定ができる。よって、Tagging SNPを400,000タイピングすれば良い。
薬理ゲノミクス Pharmacogenomics
- 作用と副作用の個人差
- 身体は薬剤を代謝して体外に排出する。その機能には個人差がある。
- 患者の体質(遺伝的背景)に応じた予防と治療(テーラーメイド・オーダーメイド医療、個別化医療)
- 重篤な副作用を避けたい。(例:結核に対する薬剤は、ミトコンドリアのrRNAのある1塩基に変異が入っている人に与えると、耳が聞こえなくなる副作用をもたらす。)
- 効かない人に無駄な投与はしたくない。
- 効く人だけに最適量を投与したい。
- 薬剤トランスポータや代謝酵素のSNPと副作用の相関を検討