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生体物質化学Ⅱ 第9回

第9回 2019/6/21

  • 講師:谷内江 望
  • 教科書:イラストレイテッド ハーパー・生化学
  • 教科書:ヴォート生化学

講義日程

日付 内容 (代謝から少し離れた)解析技術
6/21 ATPの役割
生体酸化
呼吸鎖と酸化的リン酸化
インタラクトーム解析
7/5 代謝の概観と代謝エネルギー源の供給
クエン酸回路:アセチル-CoAの異化代謝
解糖とピルビン酸酸化
ゲノム編集の最先端技術
7/12 グリコーゲン代謝
糖新生と血糖の調節
ゲノム編集と細胞系譜解析
7/19 脂肪酸の酸化:ケトン体生成 複雑な細胞集団のダイナミクス解析

講義の進め方

  1. 前回の小テスト解説
  2. 代謝の基礎について講義
  3. 代謝およびそれに強く結びついた生命科学現象を解析する最先端技術あるいは現在の代謝研究の弱点を解決する最先端技術について紹介
  4. 小テスト(最終試験には小テストとほぼ同じ問題を半分以上(7割)出題する)

代謝とは

  • 体内での化学物質の相互変換
  • 個々の分子が通過する経路
  • 経路間の相互関係
  • 経路を通じて代謝物の流れを調節する仕組み
  • ATPの役割

    生態系はほとんどの場合等温系であり、生命過程を推進するには化学エネルギーが必要である。そこで、食事から適切に燃料を引き出している。

    ギブス(Gibbs)の自由エネルギー変化(\(\Delta G\))

    • \(\Delta G\)(化学ポテンシャル)とは反応系で起こる全エネルギー変化のうち仕事に利用できるもの。
    • 熱力学の第一法則: 系およびそれを取り巻く(閉じた)環境の総エネルギーは一定。
    • 熱力学の第二法則: 系の総エントロピー(\(\Delta S\))は自発的反応においては増加する。
    $$\begin{aligned} \Delta G &= \Delta H - T \times \Delta S\\ \text{化学ポテンシャル} &= \text{エンタルピー変化}-\text{絶対温度}\times\text{エントロピー変化}\\ &= \Delta E - T \times \Delta S\\ &= \text{内部エネルギー変化}-\text{絶対温度}\times\text{エントロピー変化}\\ \end{aligned}$$

    吸エルゴン過程と発エルゴン過程の共役

    可逆的な化学反応において、両者の反応はそれぞれ吸エルゴン反応と発エルゴン反応であり(反応の共役)、それによってBurning out を防いでいる。

    発エルゴン的 異化 \(\Delta G<0\) 自由エネルギーを消費しながら自発的に進行
    吸エルゴン的 同化 \(\Delta G>0\) 自由エネルギーが供給される場合のみ進行

    また、ATPの加水分解エネルギーは中間的であるが、発エルゴン的に働く。

    化合物 \(\Delta G^{0^{\prime}}\)
    \(\mathrm{kJ\ /mol}\) \(\mathrm{kcal\ /mol}\)
    クレアチンリン酸 \(-43.1\) \(-10.3\)
    $$\mathrm{ATP}\rightarrow\mathrm{AMP} + \mathrm{PP_i}$$
    \(-32.2\) \(-7.7\)
    $$\mathrm{ATP}\rightarrow\mathrm{ADP} + \mathrm{P_i}$$
    \(-30.5\) \(-7.3\)

    ATPの主な供給源

    1. 酸化的リン酸化:ミトコンドリア呼吸(僕らの体の電池のようなもの。1NADHに対して効率も良い)
    2. 解糖系:1 molのグルコースから2 molの乳酸と2 molのATP
    3. クエン酸回路:スクシニルCo-A代謝

    これらをそれぞれ詳しく見ていくことになる。

    ATP分解は熱力学的に不利な反応を共役によって可能にする

    $$ \begin{aligned} \text{グルコース} + \mathrm{P_i} &\rightarrow \text{グルコース6-リン酸} + \mathrm{H_2O} & +13.8\mathrm{\ kJ/mol}\\ \mathrm{ATP} &\rightarrow \mathrm{ADP} + \mathrm{P_i} & -30.5\mathrm{\ kJ/mol}\\ \text{グルコース} + \mathrm{ATP} &\rightarrow \text{グルコース6-リン酸} + \mathrm{ADP} + \mathrm{H_2O} & -16.7\mathrm{\ kJ/mol}\\ \end{aligned} $$

    一番上の反応は吸エルゴン的な反応であるため、何もない状態では起こらないが、ATP分解とカップリングすることでトータルの反応を発エルゴン的にし、反応が進むようになっている。

    アデニル酸キナーゼがアデニンヌクレオチドを相互に変換する

    以下の反応は、今後様々な所で出てくる。

    $$\mathrm{ATP} + \mathrm{AMP} \xleftrightarrow{\text{アデニル酸キナーゼ}}2\mathrm{ADP}$$
    1. ADPをATPの合成に利用
    2. ATPが関与する活性化反応によって生じるAMPをADPに戻す
    3. AMPはATPの産生を刺激するアロステリックシグナル

    生体酸化

    酸化は電子の喪失、還元は電子の獲得を意味する。 生体酸化反応の多くが分子状酸素(\(\mathrm{O}_2\))の関与なしで進行する。

    酸化還元酵素

    酸化還元を担う酵素には以下の様々なものがある。

    1. 酸化酵素(酸素を水素の受容体として利用する)
    2. 脱水素酵素(酸素に水素を渡せない)
    3. ヒドロペルオキシダーゼ(過酸化水素や有機過酸化物を基質にする)
    4. オキシゲナーゼ(\(\mathrm{O}_2\) 由来の酸素原子を基質へ挿入)

    1. 酸化酵素

    基質から水素を引き抜き酸素分子(\(\mathrm{O}_2\))に渡す反応を触媒する酵素の総称。酸素は水または過酸化水素に還元される。

    2. 脱水素酵素

    酸化還元反応に共役した1つの基質から、他の基質へ水素を転移する機能。反応は可逆的で、細胞内で還元当量が自由に移動できることを容易にしている。

    3. ヒドロペルオキシダーゼ

    過酸化水素や有機過酸化物を基質にすることで過酸化物を還元し、遊離基(フリーラジカル)から体を守るために働く。

    • ペルオキシダーゼ
      • 過酸化物を還元
      • 乳汁、白血球、血小板などに見られる。
        $$\mathrm{H_2O_2 + AH_2}\rightarrow\mathrm{2H_2O+A}$$
    • カタラーゼ
      • 生体内では大抵の場合ペルオキシダーゼ活性
      • 血液、骨髄、粘膜、腎臓、肝臓
      • 酸化酵素の影響で生じた過酸化水素を分解
      • 肝臓に多いペルオキシソームにはオキシダーゼやカタラーゼが多い
        $$\mathrm{2H_2O_2} \rightarrow \mathrm{2H_2O + O_2}$$

    4. オキシゲナーゼ

    2段階で基質分子への酸素の取り込みを触媒する。

    1. 酸素の活性部位へ酸素が結合
    2. 結合した酵素が還元される。または基質へ添加される。

    呼吸鎖と酸化的リン酸化

    好気性生物は嫌気性生物に比較して効率よく呼吸基質の自由エネルギーを補足している。

    呼吸は酸化的リン酸化によって高エネルギー中間体であるATPを産出。

    ミトコンドリア膜区画と特異的酵素

    区画ごとに分かれており、それぞれに局在する酵素が存在する。

    呼吸鎖

    ミトコンドリアは好気呼吸におけるエネルギー産生の場として、重要な細胞小器官である。

    ミトコンドリア内膜上にある4つの呼吸鎖複合体において、酸化還元反応を利用したエネルギー代謝により、ATPを産生している。

    複合体Ⅰ NADH-Qオキシドレダクターゼ

    \(\mathrm{NADH}\) を酸化している。この時のエネルギーを利用して、マトリックス側の \(\mathrm{H}^{+}\) を汲みあげるイメージ。

    $$\mathrm{NADH} + \mathrm{Q} + 5\mathrm{H}^{+}_\text{マトリックス}\rightarrow\mathrm{NAD}^{+} + \mathrm{QH}_2 + 4\mathrm{H}^{+}_\text{膜間腔}$$

    複合体Ⅱ コハク酸-Qレダクターゼ

    呼吸鎖の反応に直接は関係ない。コハク酸を酸化している。

    複合体Ⅲ Q-シトクロムcオキシドレダクターゼ

    ユビキノールを酸化することでシトクロムcを還元する。

    $$\mathrm{QH_2} + 2\mathrm{Cyt\ c}_\text{酸化型} + 2\mathrm{H}^{+}_\text{マトリックス}\rightarrow\mathrm{Q} + 2\mathrm{Cyt\ c}_\text{還元型} + 4\mathrm{H}^{+}_\text{膜間腔}$$

    複合体Ⅳ シトクロムcオキシドレダクターゼ

    シトクロムcが酸化され、酸素分子に電子を伝達することで水に還元する。

    $$4\mathrm{Cyt\ c}_\text{還元型} + \mathrm{O}_2 + 8\mathrm{H}^{+}_\text{マトリックス}\rightarrow4\mathrm{Cyt\ c}_\text{酸化型} + 2\mathrm{H_2O} + 4\mathrm{H}^{+}_\text{膜間腔}$$

    プロトン勾配とATP生成

    • 経路Ⅰ→Ⅲ→Ⅳの場合
      $$2\mathrm{NADH_2} + \mathrm{O}_2 + 22\mathrm{H}^{+}_\text{マトリックス}\rightarrow2\mathrm{NAD}^{+} + 2\mathrm{H_2O} + 20\mathrm{H}^{+}_\text{膜間腔}$$
      上の式からわかるように、呼吸基質(\(\mathrm{NADH}\))\(1\)molごとに水素イオンが\(10\)mol汲み出されている。これは酸素\(0.5\)molの消費、およびATP\(2.5\)molの生成と等価である。
    • 経路Ⅱ→Ⅲ→Ⅳの場合 先ほどの式から複合体Ⅰでの汲み上げ分を差し引けば良いので、呼吸基質(\(\mathrm{FADH_2}\))\(1\)molごとの水素イオンの汲み上げ量は\(6\)molとなる。したがって、生成されるATPは\(6/10\)倍の\(1.5\)mol

    小テスト

    # 問題 答
    1 次の有機リン酸化合物について加水分解時に発エルゴン的に働くものはどれか。(複数回答可能)
    a)クレアチンリン酸
    b)ATP(AMPとピロリン酸になる反応)
    c)グルコース 6-リン酸
    a,b,c
    2 過酸化物を還元し、遊離基(フリーラジカル)から体を守るために働く酵素を一つ答えよ。 ペルオキシダーゼ/カタラーゼ
    3 NADH1分子が呼吸鎖において酸化されると複合体Ⅰ(NADH-Q オキシドレダクターゼ)、複合体Ⅱ(コハク酸-Q レダクターゼ)、複合体Ⅲ(Q-シトクロムcオキシドレダクターゼ)、複合体Ⅳ(シトクロムcオキシダーゼ)それぞれからいくつのプロトンが汲み出されるか。 Ⅰ:4, Ⅱ:0, Ⅲ:4, Ⅳ:2
    4 クエン酸回路で産生される基質のうち呼吸鎖に入って直接還元当量をもたらすことのできるものを2つ挙げよ。 NADH/FADH_2
    5 呼吸基質1molについて、経路Ⅰ→Ⅲ→Ⅳの場合、消費される酸素0.5molあたり2.5molのATPを産生するので、P/O=2.5ゆえに、1/2.5=0.4mol

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    Published
    Jun 21, 2019
    Last Updated
    Jun 21, 2019
    Category
    生体物質化学Ⅱ
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    • 3S 95
    • 生体物質化学Ⅱ 7
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