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システム生物学 第2回

第2回 2019/6/21

  • 講師:黒田 真也
  • 教科書
    • システムバイオロジー 岩波書店(現代生物化学入門8)
    • システム生物学入門 -生物回路の設計原理-
  • 参考書
    • ファイマン物理学<1>力学
    • やさしい機械制御
    • 力学系入門
    • 非線形制御
    • 物理法則はいかにして発見されたか

簡単な生化学反応の特性

※講義では、インスリン依存性AKT経路のモデルなどを例にとって時間変化パターンがどのようにコードされ伝達されるかを教わったが、なぜそうなるのか?の部分にあまり触れることがなかったので、『岩波教科書 現代生物科学入門第8巻「システムバイオロジー」第4章 生命現象の動的特性 付録A~E pdfファイル』を参考にして学んだ。

以下の記号は上に倣っている。

C-1)逐次1次反応;leaky integrator(漏れ積分器)

以下のように、分子 \(x\) に外部入力 \(I\) (ステップ刺激、時刻に依らず一定)及び分解が伴うような1次反応を考える。

$$I \xrightarrow[\text{入力}]{k_1} x \xrightarrow[\text{分解}]{k_2}$$

この時、\(x\) の濃度の変化速度は以下のよう微分方程式で記述できる。

$$\frac{d x}{d t}=-k_{2} x+k_{1} I$$

したがって、簡単のために \(k_1=k_2=\frac{1}{\tau}\) とすれば、以下の解が求まる。(ただし、\(t=0\) の時 \(x=0\))

$$ \begin{aligned} \tau \frac{d x}{d t}&=I-x &(\mathrm{C}.1)\\ \Longrightarrow x(t)&=I\left(1-e^{-\frac{t}{\tau}}\right) &(\mathrm{C}.2) \end{aligned} $$

C-2)時定数 \(\tau\)

上の式でおいた \(\tau\) は時定数と呼ばれ、応答の速さを特徴づける指標として用いられる。

一般に、時定数 \(\tau\) の値が「大きい」時は入力に対する出力の応答が「遅く」、「小さい」時は「早い」事が知られているが、曲線 \(x=I\left(1-e^{-\frac{t}{\tau}}\right)\) の \(t=0\) における接線 \(x = \frac{1}{\tau}\cdot t\) と直線 \(x=I\) の交点の \(x\) 座標が \(\tau\) となることを考えれば当たり前である。

上の図からも、時定数 \(\tau\) が大きくなると接線の傾きがなだらかになるため、立ち上がりが遅くなる事がわかる。

また、\(t=\tau\) の時の \(x\) の値を考えると、

$$x=I\left(1-e^{-\frac{\tau}{\tau}}\right) = I\left(1-\frac{1}{e}\right)$$

より、収束値(最大値)\(I\) の \(\left(1-\frac{1}{e}\right)\approx0.632\) 倍になっている事がわかる。

このことから、時定数とは、収束値(定常状態)の63.2%の値に達するまでの時間とも考える事ができる。

C-3)leaky integrator

上で考えた1次反応と同様のシステムは、神経細胞の電気的活動などにおいても見受けられる。そこで、神経細胞の細胞膜の回路モデルとして、以下のような回路を考える。なお、スイッチ \(\mathrm{Sw}\) は開いているものとする。

ここで、各種記号は以下を表している。

  • \(\mathrm{E_r}\)(以後 \(\mathrm{Vr}\) と記述) は静止膜電位
  • \(\mathrm{R_r}\) は膜抵抗
  • \(\mathrm{C}\) は膜容量

この系に、細胞外→細胞内方向に一定電流 \(I\) を加えた時の膜電位応答 \(V\)(コンデンサ間にかかる電圧)を調べる。

コンデンサーに蓄えられた電荷量を \(Q\) とすると、\(Q=VC\) であり、また、抵抗側に流れる電流を \(I_R\)、コンデンサー側に流れる \(I_C\) とすると、(\(I=I_R+I_C\))と、

$$ \begin{aligned} I_C &= \frac{dQ}{dt}\\ V &= R_rI_R + V_r \end{aligned} $$

なので、

$$I=I_R+I_C=\frac{V-V_r}{R_r} + \frac{d(CV)}{dt}\qquad (\mathrm{C}.5)$$

となり、ここに \(Q=VC\) を代入すれば、

$$CR_r\frac{dV}{dt} = -(V-V_r) + IR_r$$

となる。最後に、\(\tau=CR_r\) とおけば、以下の式が得られる。

$$\tau\frac{dV}{dt} = -(V-V_r) + IR_r\qquad (\mathrm{C}.6)$$

上の式で、\(-(V-V_r)\) は「漏れ」を、\(IR_r\) は「一定の入力」を表している。このようなシステムを漏れ積分回路(leaky integrator)という。

なお、\(R_r=1, V_r = 0\) とおけば、先ほどの式(\(\tau \frac{d x}{d t}=I-x\))と同じ形になっている事がわかる。

C-4)周波数応答解析

ここまでは、「一定の刺激(入力)に対して系がどのような応答を示すか」を調べた。

しかし、実際の細胞内では刺激は時間とともに変動している場合がほとんどであると考えられるので、「時間変動する刺激を加えた場合に系がどのような応答を示すか」を調べることも重要である。

そこで、時間変動する刺激はフーリエ変換によって正弦波の重ね合わせとして記述できることから、代表して正弦波刺激を考える。

正弦波のような周期的な入力刺激を与える場合、その入力刺激の持つ周波数 \(f=1/T\)(角周波数 \(\omega=2\pi/T\))が重要となる。そこで、「様々な周波数を持つ正弦波を与えてシステムがどのような応答を示すか」を調べる。(周波数応答解析)

※ これまでは「定常状態に至るまでの挙動」を主に見ていたが、一般に周波数応答解析では「定常状態での挙動」に着目している。

C-5)1次反応における周波数応答について

再び、以下の1次反応を考える。

$$I \xrightarrow[\text{入力}]{k_1} x \xrightarrow[\text{分解}]{k_2}$$

この反応は、以下の微分方程式で与えられる。

$$\tau\dot{x} = I-x\qquad (\mathrm{C}.9)$$

いま、入力 \(I\) が正弦波刺激 \(I(t) = I_0\sin\omega x\) で与えられるとする。すると、上の式は以下で与えられる。

$$\tau\dot{x} + x = I_0\sin\omega x\qquad (\mathrm{C}.10)$$

ここで、この反応における出力を \(x_{\mathrm{out}}\) とすれば定常状態では出力 \(x_{\mathrm{out}}\) も入力と同じ周波数を持った正弦波になり(感覚的には、外部から強制的に振動させられているので、定常状態であれば同じ周波数で一緒に振動するはず)、振幅と位相のみが入力と異なっているはずである。

つまり、出力の振幅 \(A_{\mathrm{out}}\) 及び入力との位相差 \(\delta\) を未知数とすれば、出力 \(x_{\mathrm{out}}\)、すなわち式(C.10)の解は、以下のように仮定できる。

$$x_{\mathrm{out}}(t) = A_{\mathrm{out}}\sin(\omega t+\delta)\qquad (\mathrm{C}.11)$$

オイラーの公式

これを式 \((\mathrm{C}.10)\) に代入すれば、\(\omega\) に対する出力振幅 \(A_{\mathrm{out}}\) と入力振幅 \(I_0\) の関係がわかりそうであるが、計算が煩雑になってしまうので、オイラーの公式を利用する。

$$e^{i \theta}=\cos \theta+i \sin \theta\qquad (\mathrm{C}.12)$$

これに \(\theta=\omega t+\delta\) を代入して、両辺に \(A_{\mathrm{out}}\) をかけると、

$$A_{\mathrm{out}} e^{i(\omega(t+\delta)}=A_{\mathrm{out}} \cos (\omega t+\delta)+i A_{\mathrm{out}} \sin (\omega t+\delta)\qquad (\mathrm{C}.13)$$

が得られる。この式を \((\mathrm{C}.11)\) と比べると、式 \((\mathrm{C}.11)\) が式 \((\mathrm{C}.13)\) の虚数部分となっている事がわかる。つまり、以下のようにして表せる。

$$\begin{aligned} x_{\mathrm{out}}(t) &=A_{\mathrm{out}} \sin (\omega t+\delta)=\operatorname{Im}\left[A_{\mathrm{out}} e^{i(a\omega x+\delta)}\right]\\ &=\operatorname{Im}\left[A_{\mathrm{out}} e^{i\delta} \cdot e^{i \omega t}\right]=\operatorname{Im}\left[\hat{A} e^{i \omega t}\right] \end{aligned}$$

なお、\(A_{\mathrm{out}} = A_{\mathrm{out}} e^{i\delta}\) とおいた。同様にして、入力 \(I(t)=I_0\sin\omega t\) についてもオイラーの公式 \((\mathrm{C}.12)\) に \(\theta=\omega t\) を代入して、以下が得られる。(なお、\(\hat{I} = I_0\) と置いた。)

$$ \begin{aligned} I(t) &=I_{0} \sin \omega t=\operatorname{Im}\left[I_{0} \cos \omega t+i \cdot I_{0} \sin \omega t\right]\\ &=\operatorname{Im}\left[I_{0} e^{i \omega t}\right]=\operatorname{Im}\left[\widehat{I} e^{i \omega t}\right] \end{aligned}$$

周波数応答関数

ここで、\(x_{\mathrm{out}}(t)\) を \(\hat{A} e^{i \omega t}\) の虚数部分、\(I(t)\) を \(\hat{I}e^{i \omega t}\) の虚数部分と考え、それぞれ式 \((\mathrm{C}.9)\) に代入する(解の複素数表示)と、各変数は以下で表されるので、

  • \(I=\hat{I} e^{i \omega t}\)
  • \(x=\hat{A} e^{i \omega t}\)
  • \(\dot{x}=i \omega \hat{A} e^{i \omega t}\)
$$ {\tau i \omega \hat{A} e^{i \omega t}+\hat{A} e^{i \omega t}=\hat{I} e^{i \omega t}} \\ {\therefore (1+\tau i \omega) \hat{A}=\hat{I}} \\ {\therefore \hat{A}=\frac{1}{1+\tau i \omega} \hat{I}} $$

今、「入力に対して出力がどれほど変化するか(増幅されるか)」が知りたいので、これらの比 \(\hat{A}/\hat{I}\) を考えると、

$$\frac{\hat{A}}{\hat{I}}=\frac{1}{1+\tau i \omega}\qquad (\mathrm{C}.14)$$

が得られる。この入出力の比 \(\hat{A}/\hat{I}\) を周波数応答関数といい、角周波数 \(\omega\) の関数となる。

gain

周波数応答解析で知りたい情報は入出力における振幅及び位相の変化であったが、まずは振幅の変化を考える。

入出力の振幅比は \(|\hat{A}|/|\hat{I}|\) で与えられるが、これをgain(ゲイン、利得)と呼び、入出力間における伝達の効率を表す尺度となる。

$$ \left|\frac{\hat{A}}{\hat{I}}\right|^{2}=\frac{1}{|1+\tau i \omega|^{2}}=\frac{1}{(1+\tau i \omega)(1-\tau i \omega)}=\frac{1}{1+\tau^{2} \omega^{2}}\\ \therefore g a i n=\left|\frac{\hat{A}}{\hat{I}}\right|=\frac{1}{\sqrt{1+\tau^{2} \omega^{2}}}\qquad (\mathrm{C}.15) $$

これより、gainを \(\omega\) の関数として見て、横軸に \(\omega\)、縦軸にgainを取って図示すると、以下の図の最も右のグラフになる。なお、このグラフは横軸に \(\log\omega\) 縦軸に \(\log(\text{gain})\) を取った両対数グラフである。

C-6)カットオフ周波数について

この時、 - \(\tau^2\omega^2\gg1\)(図の●)で \(\log(\mathrm{gain}) = -\log(\tau\omega)\) - \(\tau^2\omega^2\ll1\)(図の●)で \(\log(\mathrm{gain}) = -\log1 = 0\)

であり、上記の二つの直線は1つの交点を持つことがわかる。この交点における周波数をカットオフ(角)周波数と呼ぶ。

カットオフ周波数を \(\omega_c\) とすると、

$$-\log(\tau\omega_c) = 0\qquad \therefore\omega_c = \frac{1}{\tau}$$

(なお、カットオフ周波数は \(f_c = \frac{1}{2\pi\tau}\) である。)

ここで、カットオフ周波数(遮断周波数、コーナー周波数ともいう)は、その名の通り、ある系に入力があるときに、入力信号のうち通過させる周波数成分と、遮断させる周波数成分の境界になる周波数のことを指す。

例えば、先ほどのグラフでは、 - カットオフ周波数以下の周波数成分は通している(ある一定レベルのgainが得られている)。 - カットオフ周波数以上の周波数を持つ成分は遮断(gainが急激に低下)している。

ことから、この系は低周波成分を通過させるフィルターであると考えることができるので、このようなフィルターをローパスフィルター(low-pass filter)と呼ぶ。(高周波数成分を遮断するフィルターとも考えられるので、ハイカットフィルターとも呼ぶ。)

また、逆にカットオフ周波数以上の周波数成分は通し、それ以下の周波数成分は遮断するようなフィルターをハイパスフィルター(ローカットフィルター)と呼ぶ。

ここで、\(\omega = \omega_c\) の時のgainを考えてみると、

$$\mathrm{gain} = \frac{1}{\sqrt{1 + \tau^2\omega_c^2}} = \frac{1}{\sqrt{1 + \tau^2(1/\tau)^2}} = \frac{1}{\sqrt{2}}$$

より、gainの最大値(\(\omega=0\) のとき \(\mathrm{gain}_{max} = 1\))の \(\frac{1}{\sqrt{2}}\) 倍の値になっている。

つまり、カットオフ周波数は「gainの最大値の \(\frac{1}{\sqrt{2}}\) 倍になる周波数」のことを意味している。


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Published
Jun 21, 2019
Last Updated
Jun 21, 2019
Category
システム生物学
Tags
  • 3S 95
  • システム生物学 4
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