第11回 2019/7/5
- 講師:谷内江 望
- 教科書:イラストレイテッド ハーパー・生化学
- 教科書:ヴォート生化学
代謝の概観と代謝エネルギー源の供給
代謝の概観
代謝経路は、大きく以下の3つのカテゴリーに分けられる。
- 同化経路 分子量の小さな前駆体からより大きく複雑な化合物の合成に携わる経路。僕らがエネルギーを取り込んで、体の部品にするという反応
- 異化経路 ものを壊すことによってエネルギーを得る反応
- 両性経路
以下は、ざっくりと内容を掴むための理論値
- 70kgの成人は約1920〜2900kcalの代謝を必要とする。
- 体重あたりの消費エネルギーは、一般に大きな動物ほど小さく、小さな動物ほど大きい。
- これ↑は人間にも同じことが言えて、発育中の子供と動物は成長エネルギーコストに比例した大きなエネルギーを必要とする。
- 代謝エネルギー源の要求性は、1日を通じて比較的一定だが、ほとんどの人は1日に2〜3回の食事で代謝エネルギーをまかなっている。→エネルギーの貯蔵が必要
- 糖質:肝臓と筋肉におけるグリコーゲン
- 脂質:脂肪組織におけるトリアシルグリセロール
- 代謝エネルギー源の過剰摂取/枯渇
- 過剰摂取:トリアシルグリセロールとして脂肪組織に蓄えられ、肥満になる。
- 枯渇:タンパク質の分解によって生じたアミノ酸をエネルギー代謝に使用される→細くなる。(がん患者では、がん細胞が身体のエネルギーを急速に利用するので、これが起きている。)
- 食事による影響
- 食後:糖質が十分にあるので、ほとんどの組織の代謝エネルギー源はグルコース。解糖系からATPを作る→クエン酸回路に入って呼吸鎖が回る→大量のATPを作り出す。
- 絶食状態:脂肪酸の酸化・ケトン体の産生によって他の組織に供給する。グリコーゲンの貯蔵が尽きると、アミノ酸を利用。
- ホルモン(主にインスリン・グルカゴン)はトリアシルグリセロールとグリコーゲンの貯蔵・利用を制御している。
- 糖尿病:インスリンが効かなくなるという点では同じだが、1型2型でメカニズムは異なる。
- 1型:インスリンの合成および分泌に問題
- 2型:インスリン作用に対する組織の感受性に問題→インスリンを注射しても効果なし
消化の主要産物の処理
# | 画像 | 説明 |
---|---|---|
全体 | ||
糖質 | グルコース→ピルビン酸への回路(画像上から下)を解糖系と呼び、その逆(エネルギーを糖の形にする)を糖新生と呼ぶ。 | |
脂質 | 食事から得られる脂肪を脂肪酸の形に分解した後、再び志望の形で蓄えるもしくは、β酸化によってアセチル・CoAに変え、クエン酸回路を回す。 | |
アミノ酸 | 食事中のタンパク質をアミノ酸に変える。アミノ酸ごとにその後の変化先は異なるが、アセチル・CoAに変えることができるというのはポイント。 |
異なるレイヤーで研究する代謝
代謝は、「組織と器官レベル(どの臓器でどの代謝が主に回っていて、どの臓器/細胞から作られた物質が、どの臓器/細胞に到るのか。そもそもこれが何故僕らが様々な臓器を持っているのかの理由。)」と「細胞内レベル」で理解することが非常に重要であるが、教科書レベルでちゃんとわかっていることは「ミトコンドリアの中か外か」レベルなので、その話しか取り上げない。
臓器レベルの代謝
とは言え、臓器レベルの話も大事なので、肝臓・筋肉・エネルギーを吸収する小腸・不要な物質を排泄する腎臓レベルの話はする。
肝臓
- アミノ酸とグルコースは肝門脈を介して吸収され、肝臓によって血中の濃度を調節される。
- すぐに利用される分以外はグリコーゲンか脂肪酸の形で貯蔵。
- 利用される場合は、グルコースをグリコーゲンの形で放出する。
- 糖質が足りない時は、非糖質(乳酸・グリセロール・アミノ酸)からグルコースを作りだす。(糖新生)
- 血漿タンパク質(アルブミンなど)の合成も行う。
- 過剰なアミノ酸を脱アミノ化して尿素を腎臓へ送る(→排出される)
筋肉
- グルコースをエネルギー源として貯蔵することができる。
- 筋肉はグルコースを一気に解糖系で酸化させ、ミトコンドリアにATPを大量に作らせ、それを使って素早く筋収縮を行わないといけない。
- そこで、グリコーゲンの形でエネルギーを貯蔵しておき、グルコースがなくなったら貯蔵してあったグリコーゲンを素早く分解してATPを作りだす。
- 全体重の50%あるので、タンパク質やグリコーゲンの重要な貯蔵庫となっている。
小腸
- 食事中の脂質は、ほとんどがトリアシルグリセロール(TG)である。
- トリアシルグリセロール(TG)は、一旦小腸でモノアシルグリセロール(MG)と脂肪酸に分解される。
- その後再びトリアシルグリセロールの形に再構成され、腸粘液で様々なタンパク質と一緒に包み込まれてキロミクロンとなり、血中へと放出される。
- 何故このような複雑な流れを取っているのかはわからないが、おそらく再構成されたトリアシルグリセロールは脂肪酸になりやすいように構造が変わっているのだろうと考えられている。
- キロミクロンは血漿リボタンパク質の一種であり、リボタンパク質リパーゼ(LPL)を持つ脂肪組織で分解される。
- すると、脂肪酸からアセチル-CoAということができるようになる。
細胞レベルの代謝
- 大事なのは、ミトコンドリア
- 糖を作って解糖系につなげるパスが最も効率が良いので、オキサロ酢酸から糖新生を行う方が効率が良い。
インスリン
- インスリン
- グルコースが取り込まれると、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞が反応し、インスリンを分泌する。
- それぞれの細胞内にあるグルコース輸送体(GLUT4)は、インスリンと結合すると細胞の膜付近に寄ってくる。すると、細胞の付近に来たグルコースを細胞内に取り込むことができる。
- カルシウム濃度
- 神経が興奮すると筋肉などでカルシウム濃度が上昇し、GLUT4が細胞膜付近に寄るので、グルコースを取り込めるようになる。
クエン酸回路:アセチル-CoAの異化代謝
※上記の経路の物質は全て大事。
クエン酸回路の生物医学的重要性
- クエン酸回路(Krebs回路・トリカルボン酸回路)はミトコンドリアに存在する反応経路であり、反応の中心物質はアセチル-CoA
- アセチル-CoAのアセチル部分を酸化して補酵素を還元することで、NADHを生産する。なお、NADHはATP合成と共役した電子伝達系において再酸化される。
$$\mathrm{NAD^+}\rightarrow\mathrm{NADH}$$
- 糖質、脂質、ほとんどのアミノ酸は代謝されてアセチル-CoAかクエン酸回路の中間体となる。
クエン酸回路の概観
- アセチル-CoAのアセチル部分と炭素4個のジカルボン酸であるオキサロ酢酸が反応→炭素6個の取りカルボン酸であるクエン酸が生成
$$\text{アセチル-CoA}+\text{オキサロ酢酸}\rightarrow\mathrm{CoA} + \text{クエン酸}$$
- 2個の \(\mathrm{CO_2}\) が遊離して、オキサロ酢酸を生成
上記1,2のサイクルが繰り返されている。つまり、オキサロ酢酸が少量あれば大量のアセチルCo-Aの酸化が可能
- アセチルCo-Aは、食事から作れる。
- オキサロ酢酸は、アロステリック制御によってなくならないよう巧妙に制御されている。
酵素名 | 画像 | 内容 |
---|---|---|
クエン酸シンターゼ |
$$\text{アセチル-CoA}+\text{オキサロ酢酸}\rightarrow\mathrm{CoA-SH} + \text{クエン酸}$$
|
|
アコニターゼ | アセチルCoA由来のCにはOH基が付かない(チャネリング) クエン酸シンターゼとアコニターゼが複合体を形成している(もしくは、距離がかなり近い)ので、クエン酸シンターゼの産物が直接アコニターゼの活性部位に移動するため、位置関係が固定していることが原因。遊離を挟まないのは効率的 |
|
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ | イソクエン酸をオキサロコハク酸に一回変える。(脱水素反応)この時に、NADHが一つできている。その後、脱炭酸によってα-ケトグルタル酸にする。α-ケトグルタル酸には、核の中に入ってエピゲノムを制御するといった機能もあるので、注目されている。 | |
α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体 | NADHを作りつつα-KGからスクシニル-CoAを生成する。ピルビン酸デヒドロキナーゼ複合体と構造が似ており、反応も似ている。(歯車に似ている) | |
コハク酸チオキナーゼ | スクシニル-CoAをコハク酸に変える。この時、ATPが1つ作られる。 | |
コハク酸デヒドロゲナーゼ フマラーゼ リンゴ酸デヒドロゲナーゼ |
左図の通りの反応が起こる。 コハク酸→フマル酸 フマル酸→L-リンゴ酸 L-リンゴ酸→オキサロ酢酸 |
クエン酸回路一周で得られるATP
- 1分子の \(\mathrm{NADH}\) から \(2.5\mathrm{ATP}\)
- 1分子の \(\mathrm{FADH_2}\) から \(1.5\mathrm{ATP}\)
- 反応全体では、\(3\mathrm{NADH} + 1\mathrm{FADH_2} + 1\mathrm{ATP} = 10\mathrm{ATP}\) 産生される。
クエン酸回路で重要なビタミン
- リボフラビン フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の形でコハク酸デヒドロゲナーゼの補因子となる。(\(\mathrm{FADH_2}\) となる。)
- ナイアシン ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の形でイソクエン酸デヒドロゲナーゼ、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼの電子受容体となる。(\(\mathrm{NADH}\) となる。)
- チアミン チアミン二リン酸として、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼによる脱炭酸反応の補酵素となる。
- パントテン酸 カルボン酸残基を活性化する補酵素Aの部分構造(例:アセチル-CoAやスクシニル-CoA)
糖新生
- グルコースが足りない時に、オキサロ酢酸をホスホエノールピルビン酸に変えて、グルコースを作り出す反応
- オキサロ酢酸がなくならないように制御されている。
- 肝臓や腎臓では、反応がGDP依存の反応になっている。
- スクシニル-CoAからフマル酸を作る際にGDP→GTPが生産される。
- したがって、オキサロ酢酸を作った分しかGTPが生まれないので、オキサロ酢酸が過剰に消費されない。
- ピルビン酸からアセチル-CoA/オキサロ酢酸のどちらへの反応が活性化されるかは、アロステリック制御を受けているので、オキサロ酢酸の供給が保証されている。
- 肝臓や腎臓では、反応がGDP依存の反応になっている。
解糖とピルビン酸酸化
解糖系
- アセチル-CoAがどのようにできるか
- 好気的にも嫌気的にも進行する。
- 赤血球は代謝のエネルギー源を嫌気的グルコース代謝に依存している。
系全体の反応式は以下:
$$\text{グルコース} + 2\mathrm{ADP} \rightarrow 2\text{乳酸} + 2\mathrm{ATP} + 2\mathrm{H_20}$$
酵素名 | 画像 | 内容 |
---|---|---|
ヘキソキナーゼ | ATPを1つ消費してしまう。 | |
ホスホヘキソースイソメラーゼ | 再びATPが1つ消費されてしまう。 | |
アルドラーゼ ホスホトリオースイソメラーゼ |
フルクトース1,6-ビスリン酸が、「グリセルアルデヒド3-リン酸」と「ジヒドロキシアセトンリン酸」に分割される。 なお、両者はホスホトリオースイソメラーゼによって交互に変換される。 |
|
ホスホグリセリン酸キナーゼ | ||
ホスホグリセリン酸ムターゼ | ||
エノラーゼ | ||
ピルビン酸キナーゼ | 最後のリン酸基が取れて、ATPを生じる。 エノール型のピルビン酸からケト型のピルビン酸への反応は不可逆。 |
|
乳酸デヒドロゲナーゼ |
解糖系で得られるATP
以下の画像のようになるので、グルコース1あたり正味2のATPを産生する。
ピルビン酸の酸化
反応全体で考えると、
$$\text{ピルビン酸}+\mathrm{NADH^{\prime}} + \mathrm{CoA}\rightarrow\text{アセチル-CoA} + \mathrm{NADH} + \mathrm{H^+} + \mathrm{CO_2}$$
- ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体がうまく連携している。
- TDP(チアミン二リン酸)が無いと、アセチル-CoAが作れないので、チアミンをビタミンとして摂取するのは非常に重要。
- アルコールはチアミンの吸収を阻害してしまう
小テスト
# | 問題 | 答 |
---|---|---|
1 | 理論的には好気的条件下において1分子のアセチル-CoAが酸化されてクエン酸回路が一周することはATP10分子の生成につながる。クエン酸回路のどの過程においてATPが産出するか、または呼吸鎖の還元当量が生み出されるか説明した上で理由を説明せよ。 | イソクエン酸・αケトグルタル酸・L-リンゴ酸が代謝される時に合わせて3分子のNADHができる。また、コハク酸デヒドロゲナーゼの所で1分子のFADH2ができる。1分子のNADHからは2.5分子のATP、1分子のFADH2からは1.5分子のATPが産生されるので、合計9分子のATPができる。腎臓や肝臓などのGDPを必要とする臓器以外(筋肉など)では、コハク酸チオキナーゼの部分で1分子のATPが産出されるので、これも足してクエン酸回路一周で合計10分子のATPが生成される。 |
2 | 生体内では糖新生によってオキサロ酢酸が枯渇しないメカニズムがある。どのようなものか一つ以上答えよ | ピルビン酸からアセチル-CoAが大量に生成されると、ピルビン酸からアセチル-CoAを生成する酵素(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ)を抑制する一方で、ピルビン酸からオキサロ酢酸を生成する酵素(ピルビン酸カルボキシキナーゼ)を活性化する。(アロステリック制御) オキサロ酢酸からグルコースを作る際には、GDPを利用する。このGDPが1分子作られる際に1分子のオキサロ酢酸が生成されるため、オキサロ酢酸が過剰にグルコースへと反応すること(糖新生)がない。 |
3 | アセチル-CoAとオキサロ酢酸の反応によって生成するクエン酸は対称な分子であるが、クエン酸回路の後半においては酸化によって除去される炭素分子はアセチル-CoA由来のものとはならない。なぜか説明せよ。 | クエン酸シンターゼとアコニターゼの間に物理的な相互作用があるため、クエン酸シンターゼによって生成されたクエン酸はそのままアコニターゼと反応する。ゆえに、ある方向からしかアコニターゼの反応が起こらないため、特異性が生じる(チャネリング) |
4 | 嫌気的条件下において、1分子のグルコースが代謝されて乳酸になるとき解糖系から直接生み出される正味のATP分子はいくつか。該当する反応全てについて消費または産出されるATPの分子の数を答えよ。 | -1-1+1×2+1×2=2 |
5 | アルコール依存症の患者が乳酸アシドーシスを引き起こした場合、どのような理由が考えられるか。代謝経路および酵素の作用機序と絡めて答えよ。 | チアミンがピルビン酸デヒドロゲナーゼの補酵素として働くため、チアミンが存在していないとピルビン酸からアセチル-CoAを生成する反応が起こらない。アルコール依存症の患者は食事をあまりしないためビタミンであるチアミンの吸収量が減る上、アルコールによってチアミンの吸収が阻害されるので、アセチル-CoAが生成されなくなって乳酸アシドーシスを引き起こしてしまう。 |
6 | 好気的条件下において1molのグルコースが全て燃焼して水と \(\mathrm{CO_2}\) になるとき、ATPの最大産生量の理論値が何molかについて、代謝の該当する反応全てについて、それぞれどれだけのATPあるいは還元当量が産出されるか示して答えよ。解糖で生成したNADHは全てリンゴ酸シャトルを介してミトコンドリアに入るものとする。 | 以下参照(32mol) |
経路 | 反応を触媒する酵素 | ATP産生方法 | グルコース1molあたり生成するATPの数 |
---|---|---|---|
解糖 | グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ | 2個のNADHの呼吸鎖による酸化 | 5 |
ホスホグリセリン酸キナーゼ | 基質レベルのリン酸化 | 2 | |
ピルビン酸キナーゼ | 基質レベルのリン酸化 | 2 | |
ヘキソキナーゼとホスホフルクトキナーゼで触媒される反応によるATP消費 | -2 | ||
正味7 | |||
クエン酸回路 | ピルビン酸デヒドロゲナーゼ | 2個のNADHの呼吸鎖による酸化 | 5 |
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ | 2個のNADHの呼吸鎖による酸化 | 5 | |
α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ | 2個のNADHの呼吸鎖による酸化 | 5 | |
コハク酸チオキナーゼ | 基質レベルのリン酸化 | 2 | |
コハク酸デヒドロゲナーゼ | 2個の \(\mathrm{FADH_2}\) の呼吸鎖による酸化 | 3 | |
リンゴ酸デヒドロゲナーゼ | 2個の \(\mathrm{NADH}\) の呼吸鎖による酸化 | 5 | |
正味25 |