第3回 2019/5/15
1. 対立遺伝子頻度変化の決定論的記述
突然変異の効果
突然変異は、一般に以下のようにモデル化される。
- 任意交配をこなっている二倍体集団
- 世代 \(t\) におけるAの集団頻度を \(p_t\)、aの集団頻度を \(q_t\)(\(p_t + q_t = 1\))
- Aからaへの突然変異率を \(u\)、aからAへの突然変異率を \(v\)
この際、数式的には以下のように書き表すことができる。
自然選択モデル
遺伝子型によって適応度に差がある場合、一般に以下のようにモデル化される。(生き残りやすさをモデル化している。)
- 任意交配をこなっている二倍体集団
- \(t\) 世代目の成体中(配偶子中)のAとaの頻度をそれぞれ \(p_t,q_t\)(\(p_t + q_t = 1\))
- \(t+1\) 世代目の子ども中のAA、Aa、aaの頻度をそれぞれ \(p_t^2,2p_tq_t,q_t^2\)
- AA、Aa、aaの適応度を \(W_{AA},W_{Aa},W_{aa}\)
遺伝子型 | AA | Aa | aa | 合計 |
---|---|---|---|---|
頻度 | \(p_1^2\) | \(2p_tq_t\) | \(q_t^2\) | \(1\) |
適応度 | \(W_{AA}\) | \(W_{Aa}\) | \(W_{aa}\) | |
遺伝子プールへの寄与 | \(p_t^2W_{AA}\) | \(2p_tq_tW_{Aa}\) | \(q_t^2W_{aa}\) | \(W\) |
ここで \(W=p_1^2W_{AA}+2p_tq_tW_{Aa}+q_t^2W_{aa}\) を集団適応度と呼び、\(t+1\) 世代における成体中のAの頻度は \(p_{t+1} = \left[p_t^2W_{AA}+p_tq_tW_{Aa}\right]/W\) で表される。
なお、AA、Aa、aaの適応度の最大値を \(W_{max}\) として、AA、Aa、aaの相対適応度を \(W_{AA}/W_{max},W_{Aa}/W_{max},W_{aa}/W_{max}\) で与え、式を簡潔にしたものを使うことも多い。
遺伝子型 | AA | Aa | aa | 合計 |
---|---|---|---|---|
相対頻度 | \(p_1^2\) | \(2p_tq_t\) | \(q_t^2\) | \(1\) |
相対適応度 | \(1\) | \(1-s_1\) | \(1-s_2\) | |
遺伝子プールへの寄与 | \(p_t^2\) | \(2p_tq_t(1-s_1)\) | \(q_t^2(1-s_2)\) | \(W\) |
この時、集団適応度 \(W=p_t^2 + 2p_tq_t(1-s_1) + q_t^2(1-s_2)\)
ここで、\(s_1=s/2, s_2=s\) とおくと、
である。よって、世代あたりの対立遺伝子頻度変化は、
したがって、\(0<p_t<1\)(固定や消失が起きていない)であれば \(\Delta p_t>0\) より、Aアリル頻度は常に増加する。また、頻度変化は \(p_t=0.5\) で最大値を取る。
ライトの公式(蛇足)
再びAA、Aa、aaの適応度を \(W_{AA},W_{Aa},W_{aa}\) とおく。(集団適応度は \(W=p_1^2W_{AA}+2p_tq_tW_{Aa}+q_t^2W_{aa}\) で表される。)
ここで、各遺伝子型の適応度 \(W\) は対立遺伝子頻度 \(p_t\) に依らないと仮定すると、
この仮定はイマイチだと感じた。
一世代あたりのAの頻度変化は
で表されるが、常に \(p_tq_t/(2W)>0\) であるので、\(dW/dp_t>0\) であればAの頻度 \(p_t\) は増加し、\(dW/dp_t<0\) であれば減少する。
つまり、\(W\) が増加するようにアリル頻度は変化する。
また、頻度変化が停止するAアリルの頻度が \(0<p<1\) の範囲にある時、この頻度 \(p_e\) を平衡頻度と呼ぶ。
強い自然選択が作用したアリルの年齢推定
先の式 \(\Delta p_t\fallingdotseq sp_t(1-p_t)/2\) を微分形式に書き換えると、\(dp/dt = sp(1-p)/2\) となる。これを、\(dt=2dp/[sp(1-p)]\) と整理し、
と両辺積分すれば、\(p_0\) から \(p_T\) への変化に要する世代数 \(T\) を求めることができる。
X染色体上の遺伝子座におけるアリル頻度変化
- オスはXX、メスはXY
- X染色体上のある遺伝子座には2つのアリル \(X_1\) と \(X_2\) が存在
- 任意交配を行なっている二倍体集団
- \(t\) 世代目の
- オス中の \(X_1Y\) と \(X_2Y\) の頻度を \(p_t\) と \(1-p_t\)
- メス中の \(X_1X_1,X_1X_2,X_2X_2\) の頻度を \(q_t,r_t,q-q_t-r_t\)
この時、オスのX染色体は必ず1世代前のメス由来であるので、オスの遺伝子型頻度に着目することで以下の漸化式を導くことができる。
- \(t+2\) 世代目のオスの \(X_1Y\) の頻度 \(p_{t+2}\) は、\(t+1\) 世代目のメスの \(X_1\) の頻度に等しい。
- \(t+1\) 世代目のメスの \(X_1\) の頻度は、\(t\) 世代目のオスの \(X_1Y\) の頻度 \(p_t\) と \(t\) 世代目のメスの \(X_1\) の頻度を元に考えられる。
したがって、これらの漸化式を組み合わせて、
が得られる。上記の式を整理すると、
より、
ゆえに、\((4)\) から \((3)\) を引いて両辺を \(2/3\) 倍して
有害突然変異の維持
- 任意交配を行なっている二倍体集団
- 世代 \(t\) における成体中の正常アリルAの集団頻度 \(p_t\)、有害突然変異アリルaの集団頻度 \(q_t\)
- AA,Aa,aaの相対適応度を \(1,1-s_1,1-s_2(s_1\leq s_2)\)
\(t+1\) 世代のアリルaの頻度を考えると、
したがって、一世代あたりの変化は、
ここで、Aからaへの<b.有害突然変異率を \(u\) とし、aからAへの復帰突然変異を無視すると、重ね合わせの原理によって、以下のように計算できる。(厳密な計算ではないが、十分に近似できる。)
平衡状態 \(q_t = q_{eq}\) ではaの頻度は変化しないので、\(\Delta q=0\) より
この時、 - \(u\ll s_1,s_2\) であれば、\(q_{eq}\) は小さい値をとる。 - \(q_{eq}\) が小さければ、\(W\simeq1\) である。
そこで、aの平衡頻度 \(q_{eq}\) は、\(q_{eq}\) の二次方程式を解くことで、
- 完全劣性であれば(\(s_1=0\))
- 完全優性であれば(\(s_1=s_2\))
平衡状態では、失われるaアリルの頻度と突然変異によって誕生するaアリルの頻度が等しくなる(自然選択によって失われる分と突然変異によって増える分がつり合う)ので、
- 常染色体劣性では(\(s_2q_{eq}^2 = u\))
- 常染色体優性では(\(s_2q_{eq}(1-q_{eq}) + s_2q_{eq}^2 = u\))
2. プライスの方程式
ここまで、自然選択が作用する場合のアリル頻度の変化を、同じ遺伝子型の個体は同じ適応度を持つという仮定の下で定式化した。
ここからは、同じ遺伝子型でも個体ごとに適応度にばらつきがある場合を考える。
モデル
- \(n\) 個体からなる(\(i=1\sim n\))
- 1遺伝子座2アリル(遺伝子型はAA,Aa,aa)
- \(i\) 番目の個体が保有するAアリルの割合 \(p_i\)
- 集団中のAアリルの頻度
- \(i\) 番目の個体の適応度を \(W_i\) とすると、集団の平均適応度は
- \(i\) 番目の個体の配偶子に含まれるAアリルの割合を \(p^{\prime}_i\) とすると、次世代のAアリルの頻度は
よって、これを元に考えると、世代間のアリル頻度の変化量は、
ここで、\(p'_i = p_i + \Delta p_i\) を代入して、
が導かれる。これを、プライスの方程式という。
この式は、「アリル頻度変化が2つの効果の和によって引き起こされること」を示している。
- 右辺第一項は、個体の有するAアリル頻度(割合)と適応度に正の相関があればAアリル頻度は増加し、負の相関があればAアリル頻度は減少することを意味する。
- 右辺第二項は、個体の有するAアリル頻度(割合)と配偶子中のAアリルの割合が異なる(例えば、減数分裂分離比ひずみ)と、頻度変化し得ることを意味する。 ※ 一般に、\(\Delta p_i=0\) より、右辺第二項は \(0\) である。
※ 続きは、第8回(6/26)の講義で行われた。