第1回 2019/6/7
- 講師:黒田 真也
- 教科書
- 参考書
講義日程
# | 日付 | 内容 |
---|---|---|
1 | 6/7 | ・イントロ ・フィードフォワード ・微分積分回路と細胞運命決定 |
2 | 6/21 | ・フィードフォワード ・インスリン作用 ・低周波フィルタ |
3 | 6/28 | ・ネガティブフィードバック ・浸透圧調節 ・固有値と解の振る舞い |
4 | 7/5 | ・高次反応とスイッチ応答 ・ポジティブフィードバック ・減数分裂 |
5 | 7/12 | ・ポジティブ+ネガティブフィードバック ・神経細胞の活動電位 ・確率共鳴 ・分子数の少数性によるゆらぎを利用したロバストネス |
6 | 7/19 | ・シャノンの情報理論によるシグナル伝達経路の解析 ・代謝フラックス解析 ・多階層オミクスを統合したデータドリブンシステム生物学 |
6 | 7/26 | テスト |
イントロダクション
現象の特性
部分と全体
システムが分かるとは?
# | 天体の運動 | シグナル伝達 |
---|---|---|
要素の同定 | 惑星 | 遺伝子、タンパク質 |
要素の振る舞い | 軌道 (ブラーエ) |
一括性や持続性の活性化 |
要素を同定し、振る舞いを観察することで、「系の特性とそれを生み出す原理」を導出するのがシステム生物学。
ニュートンはすごい ニュートンがやったことは、説明。重力というものを仮定すると、全部説明できる。新しいものを発見したわけではないが、世の中の見方を大きく変えた。それが自然科学の面白いところだと感じている。
Model(理論)と限定性
現象を記述するのに必要なパラメータは、システムの特性に依存する。
また、全ての要素が入った複雑なモデルは、必ずしも良いモデルとは言えない。→「シンプル」かつ、「エッセンシャル」なルールを抽出する(モデルの縮約(Model Reduction))ことが必要である。
順モデルと逆モデル
システム生物学の研究の仕方として、「順モデル」と「逆モデル」がある。
順モデル | 逆モデル |
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仮説ドリブン | データドリブン |
分子間の相互作用に関する事前知識(ネットワークを記述する式)がありそこから反応を記述し検証する。 | 何が正解かわからないので、データから内部構造を推定する(システム同定) |
以前はデータと知見によって人力でモデルを作り込んでいたが、統計科学の発展と計算機性能向上により、「データからモデル」の流れが実用的になりつつある。
データからモデルを生成するというのは、正に機械学習がやってることそのものだなぁ。関数の置き方に生物学的な知識はどれほど必要なのだろうか…。実習(生命科学基礎実験)でモデルを作ってみたい!!
分子ネットワークのタイプ
前向き制御(フィードフォワード)
細胞運命決定機構
多細胞生物は、一つの受精卵が増殖して異なる細胞へ分化することにより、組織を形成して固体となる。
細胞の増殖と分化は同時には起こらないため、細胞の増殖と分化は一種のスイッチ現象と見なす事ができる。
細胞の増殖と分化のモデルとして用いられるPC12細胞(神経になる一歩手前の細胞)では、EGF(Epidermal growth factor)刺激により増殖を、NGF(Nerve growth factor)刺激により神経様細胞へ分化する事が知られている。
この時、EGFとNGF刺激は、細胞内では一種類の分子ERKを一過性および持続性に活性化する。
つまり、「同じ分子(ERK)であっても時間波形が異なるだけで異なる現象を引き起こす」事がわかる。
Reference: Slides Player
シグナル伝達の時間情報コーディング
- 微分回路(上)は早いスピードの刺激に対して応答し、刺激の強さに依らずに活性化する。
- 積分回路(下)は刺激の強さに応じて活性化する。
Reference: Slides Player
このように、回路がフィルタの役割をしているので、上流のinhibitorが下流のactivatorになることも十分に考えられる。
後ろ向き制御(ポジティブフィードバック)
以下の二種類のスイッチ応答を行なう。
- 単安定応答:一度閾値を超えても、また刺激がなくなると応答を行わなくなう。
- 双安定応答:一度閾値を超えると、刺激がなくなっても応答を行う。(記録)
◯特徴 - All-or-none - 刺激強度に閾値がある(超えるとAll, 超えないとNone) - 履歴がある。つまり、メモリ(一度超えるとその状態を保持)
例)神経細胞の活動電位
細胞の興奮(=細胞が活動電位を発生すること)を考える。なお、活動電位とは、細胞内電位が一定の値よりも浅くなったとき、それに続く一過性の電位変化のことである。
細胞は、静止電位の状態では、以下のような濃度勾配になっている。
\(\mathrm{Na}^{+}\) | \(\mathrm{K}^{+}\) | |
---|---|---|
内側 | \(37\ \mathrm{mM}\) | \(110\ \mathrm{mM}\) |
外側 | \(140\ \mathrm{mM}\) | \(\sim5 \mathrm{mM}\) |
この状態で刺激を受けると、それまで不透過であったナトリウムイオン(\(\mathrm{Na}^{+}\))を細胞内に通すことになる。
すると、細胞内への \(\mathrm{Na}^{+}\) がさらなる脱分極(膜電位の現象)を引き起こし、それがさらに多くの \(\mathrm{Na}^{+}\) チャネルを開状態にする。このポジティブフィードバックによって、活動電位が全か無かの法則に従って発生する。(閾値を超える脱分極が生じたときのみ、活動電位が発生する。)
活動電位とノイズ:確率共鳴
確率共鳴(Stochastic Resonance)とは、信号にノイズを加えることで、ある確率の下で信号が強まり、反応が向上する現象のこと。
閾値未満の微弱な信号に不規則なノイズを加えると、確率共鳴により、閾値を越えて検知できるようになる。
一つのNeuronでの発火はバラバラだが、入力の強さに相関しながら確率的に発火するので、ポストニューロンが受け取る信号(重ね合わせ)は元の微弱な信号となっている。
定性的マップ vs 定量的マップ
定性的 | 定量的 |
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ローカルの積み上げ →仮説駆動 |
グローバル →データ駆動 |
個人のバイアスが入る でもわかりやすい |
個人のバイアスを避ける でも複雑でわからん? |
まとめ
分子は媒体
分子と機能をついつい対応させたくなるが、分子自体は情報ではなく媒体(情報を伝えるもの)であり、分子の「変動パターン」が情報であり、分子ネットワークの上を伝わるものである。