- 講師:饗場篤
- 参考文献:Neuroscience: Exploring the Brain, 3rd Edition
- 参考文献:Principles of Neurobiology
- 参考文献:カラー版 神経科学 −脳の探求−
感覚神経系(4)
聴覚系(auditory system)によりもたらされている聴覚(audition)と、前庭系(vestibular system)による平衡感覚(sense of balance)は、機能は全く異なるが、構造と機序においては驚くほど似ている。
また、味(味覚(gustation)) と におい(嗅覚(olfaction)) に関しても、どちらも化学物質に反応性のある細胞、すなわち1を用いて
聴覚系
- 音の2とは、1秒毎に耳を通過する、圧縮あるいは希薄化された空気の数であり、3と呼ばれる単位で表されるが、ヒトは、20~20,000Hzの範囲の音を聞き取れる。
- 音の高さの感覚のことを4は2で決まる。
- 部屋を振動させるようなオルガンの低い音が 20Hz
- 耳を貫くようなピッコロの高い音が 10,000 Hz
- ヒトの音の強さの感受性は、1兆倍のレンジを持つ。
- ヒトは水平面なら2°の正確さで音源の位置を特定できる。
- 音の5は圧縮された空気と希薄となった空気との圧力の差であるが、これは私たちが感知する 音の強さ(大きさ)(loudness) を決定する。
聴覚系の構造
耳は、外から見える部分は皮膚に覆われた軟骨からなり、6と呼ばれる一種の漏斗を形成し、広い領域から音を集めるのに役立っている。6の構造によって、後方より前方からの音に感受性がより強い。また、6の折り曲がった構造は音の発生源の位置を知ること、つまり 音源定位 に役立っている。ヒトではほとんど固定されているが、猫や馬では6の筋肉支配が発達しており、音源の方向に6を向けることができる。
耳の内部への入り口は7と呼ばれ、頭蓋骨の中を8に達するまで約2.5cm伸びている。8の内側表面に接するのは9であり、9は、8の振動を10と呼ばれる頭蓋骨の穴を覆っている2番目の膜の振動に伝える。
10の奥には、液体に満たされた11があり、11には10の膜の物理的な振動をニューロンの反応へと変換する装置がある。
これらをまとめると、基本的な聴覚系の第一段階は、
- 音波が8を動かす。
- 8が9を動かす。
- 9が10の膜を動かす。
- 10の膜の運動が11の液体を動かす。
- 11内の液体の運動が感覚ニューロン(聴覚受容細胞)の反応を引き起こす。
なおここで、耳の構造は、
- 6から8までの12
- 8から9までの13
- 10より内側の14
というように3つの部位に分けるのが一般的である。14で音に対するニューロンの反応が生じると、信号は 脳幹 にある一連の神経核に伝えられ処理する。これらの神経核からの出力は視床の中継核、すなわち15に送られ、最終的には側頭葉の16(もしくは17)に投射する。
感覚受容器から始まり、初期の統合機構(視覚では網膜であり、聴覚では脳幹)につながり、そして視床中継核を経て、感覚野に達するという意味で、聴覚系と視覚系は似かよっている。
前庭感覚系(平衡感覚系)
- 音楽を聴くこと (聴覚系) と自転車に乗ること (前庭感覚系) は、共に18による機械受容機構が関与する感覚に依存している。
- 前庭感覚系は、頭の位置と運動の情報を検知して、体のつり合いと平衡の感覚を伝え、そして頭と眼球の協調的な運動と体の姿勢の調節とを助けている。
- 前庭感覚系の機能が障害されると、乗り物酔いと表現される不快な感覚が起こる。
内耳の平衡感覚に関する部分は19(あるいは、20)と呼ばれている。19には、異なった機能を持つ2種類の構造がある。
- 21:重力と頭の傾きを検知する。迷路の中心に22と23の一対の比較的大きな腔からなる。
- 24:頭の回転に感受性を持つ。3つの24は互いに直交するC字型の半管で、それぞれの基部に膨大部というふくらみが1つずつあり、内部に感覚装置である膨大部稜を入れる。
それぞれの構造の本質的な働きは、頭の運動に由来する機械的なエネルギーを18に伝えることであり、18が存在しているそれぞれの構造の 特異性 によって、それぞれ異なった種類の動きに感受性を持つ。
味覚系
基本味
基本味は、25、26、27、28、29の5種類ある。また、食物の風味の近くの方法は以下の通りである。
- 食物はそれぞれに特有の基本味を持つ。
- 食物は味とにおいの両者が同時に生じることによって独特の風味を持つ。(→ 風邪を引くと味がわからなくなる。)
- 痛覚(辛味;カプサイシン受容体TRPV1)等の味覚や嗅覚以外の感覚が食物の味の近くに関与する。
味覚器
舌の表面には、30と呼ばれる小さな突起が点在する。30には
- 屋根の煉瓦状のもの:31
- 小丘状のもの:32
- 茸状のもの:33
がある。舌の前と両脇には小さな丸い30を、奥の方には大きな30を容易に見ることができる。各々の30には、顕微鏡でしか観察できない34が百〜数百個存在し、それぞれの34の中には、50~150個の35が並んでいる他、味覚求心性線維と味細胞とのシナプス、基底細胞からなる。35の微絨毛は味孔へと突き出ており、ここで唾液に溶解している化学物質が直接35と反応する。34の細胞は約10日でターンオーバーを繰り返す。
味覚の刺激変換機構
環境からの刺激が感覚受容細胞で電気的反応を引き起こす過程を、36というが、いくつかの感覚系では1つの刺激変換機構を利用するために、基本的な受容細胞を1種類だけ持っていることが多い(ex.聴覚系)。
しかし、味覚の36には多くの機構が存在し、それぞれの基本味の近くには1つないしは複数のメカニズムが関与している。味刺激、すなわち味刺激(tastant)は、
- 開いたイオンチャネルを直接通過する:25(\(\mathrm{Na}^{+}\))、26(\(\mathrm{H}^{+}\))は直接イオンチャネルに作用し、膜を脱分極させる。
- イオンチャネルに結合してブロックする:(26)
- 膜受容体に結合し二次メッセンジャー系を活性化させることにより、イオンチャネルを開ける:28、27、29(アミノ酸)は、三量体Gタンパク質を活性化させる。
などの方法で最終的に味覚受容細胞の細胞内カルシウム濃度を上昇させ、神経伝達物質(ATPだと考えられている)を放出し、一次味覚神経に活動電位を生じさせている。
嗅覚系
- 自己と非自己、動物と植物に関する情報を検知する。
- 味覚系と協同して食物の同定に役立ち、有害物質を検知する。
- ヒトは数十万の物質の匂いをかぐことができる。
嗅覚器
鼻腔の天井に位置する37で匂いを嗅ぐ。37には、主として3種類の細胞がある。
- 38は、刺激情報の変換の場である。35と異なり、38は本来ニューロンであり、その軸索は中枢神経系に入っていく。ただ、35と同様に、約4~8習慣のサイクルで絶えず成長、死、再生を繰り返す。この性質は、神経系のニューロンとしては非常に珍しい。
- 39は、グリア細胞に類似している。機能的には、粘液(mucus)の分泌を手助けすることも知られている。
- 40は、新たな受容細胞の供給源となる。
嗅覚の刺激変換機構
味覚受容細胞はたくさんの刺激変換分子機構を使用するが、嗅覚受容細胞が使用しているのはおそらく1種類だけだと考えられる。刺激変換を担う全ての分子は細い線毛にあり、嗅覚の変換経路は
- におい物質(odorant)と呼ばれる空気中にある化学物質
- 膜上のにおい物質受容タンパクとの結合
- Gタンパク質の刺激
- cAMPの産生
- cAMPと特異的陽イオンチャネルの結合
- 陽イオンチャネルの開口とNa+およびCA2+の流入
- Ca2+作動性Cl-チャネルの開口
- 電流の流入による膜の脱分極(受容器電位)