- 講師:饗場篤
- 参考文献:Neuroscience: Exploring the Brain, 3rd Edition
- 参考文献:Principles of Neurobiology
- 参考文献:カラー版 神経科学 −脳の探求−
感覚神経系(3)
視覚系
末梢視覚系(眼)
網膜神経節細胞(retinal granule cell; RGC)
1の受容野は、光によって1の発火パターンが変化する視野の領域または、それに相当する 網膜領域 である。
1のそばに細胞外電極をおいて、単一のニューロンの発火パターンを測定できる。(2)
下図にあるスポット光を網膜上で動かし、1の発火パターンを調べることで、2種類の1があることが分かった。
実験結果 | 説明 |
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これは、中心ON型1では、周辺部の光刺激が細胞を抑制するからである。中心OFF型1では、これと反対の性質を持つ。このように、1は、単純に光に応答するのではなく、網膜内の狭い領域の明暗の対比を認識していることがわかる。 |
では、続いて 受容野に照射した光の明暗境界に対する 神経節細胞の出力を調べる。
実験結果 | 説明 |
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これより、神経節細胞の反応は、主に受容野内に明暗の境界があるかないかによって調節されることがわかる。 |
これらの実験から、視覚系は網膜上に当たる光の絶対的な強さよりも、むしろ空間の局所変化を感知するよう特殊化していると考えられる。
明暗知覚に関するコントラストの影響
このことは、視覚における 錯覚(錯視) が多くあることでもわかる。例えば、明暗知覚に関するコントラストの影響を考えると、以下の二つの画像は 中心の四角形の灰色の明度は同じ だが、左の方が 明るい ために、左の四角形の方が 暗く 見える。
中心ON型受容野は、左側では右側よりも周辺部に強い光を受けている。これより、左側の神経節細胞の反応は小さくなる。その結果、左の四角はより暗くなると考えられる。
網膜神経節細胞(retinal granule cell; RGC)
哺乳動物の網膜の神経節細胞は、その大半が中心ON型か、中心OFF型の中心-周辺受容野の仕組みを持つ。これらは細胞の 形態・接続様式・電気生理学的特性 に基づいてさらに分類されている。
マカグザルとヒトの網膜では、主要な2タイプの神経節細胞が際立っている。大きな3と、それよりは小さい4である。
- 4は神経節細胞の約90%を締め、これは色(赤-緑対立)や形の識別に関与する。この細胞は、刺激が与えられている間は持続的に放電し続ける 反応を示す。
- 3は神経節細胞の約5%を締め、これは動きの検出に関与する。4に比べて より大きな受容野 を持ち、視神経内の活動電位を より速く伝達 し、光のコントラストが 小さい刺激に対してもより高い感受性 を持つ。また、受容野中心部の刺激に対して一過性で群発性の活動電位で反応 する。
- 残りの5%は、特性がはっきりしない5からなる。
他にも、色(青-黄対立)や暗時には桿体からの情報を集める6など、網膜神経節細胞は全部で約20種類に分類されており、それぞれの種類の神経節細胞が網膜全体をタイルのように覆っている。
中枢視覚系
網膜(末梢視覚系)によって検出された情報から中枢視覚系が、物体の色・位置・動き等を抽出し、認知する。
視神経に始まる神経経路は、しばしば7と呼ばれる。
なお、
-fugal
という接尾語は 遠ざかる という意のラテン語に由来しており、神経解剖学では一般的に、ある構造から離れていく経路を示すのに用いられる。
網膜から "遠ざかる" 神経節細胞の軸索は、3つの部位を通過した後、脳幹内でシナプスを形成する。網膜からのこの遠心路の3つの部位は、順に8、9、10である。
- 8は視神経円板(視神経乳頭ともいう)の位置で左右の眼から出て、眼球背部の眼窩内にある脂肪組織をくぐり抜けた後、頭蓋底の孔(11)を通り頭蓋腔に入る。
- 左右の眼からの8は合流し、下垂体のすぐ前方の脳底部で9を形成する。9において、鼻側網膜からの軸索は互いに対側に交叉する。一側から他側への対をなす線維束の交叉は12と呼ばれる。(鼻側網膜から出る軸索だけが交叉するため、視交叉では網膜からの投射が半交叉することになる。)
- 網膜から出た軸索は、視交叉における半交叉を経て10を構成し、間脳の外側表面に沿って軟膜直下を走行する。
網膜の神経節細胞の軸索である視神経線維の一部は、中脳の13や視蓋前野にも投射する。13は、周囲で生じた感覚刺激に対して目と頭を向ける反射に関与している。
視蓋前野は、瞳孔の大きさやある種の眼球運動を制御する。また、日内リズムの振動体である視床下部の視交叉上核へも投射し、日内リズムの光同調に関与する。
脳機能の頭端移動の法則
いかなる動物においても13(14)は発達している。特に下等生物では13(14)はあらゆる感覚入力を統合し、延髄や脊髄に出力する重要な統合中枢である。
しかし、哺乳類になると、視覚の最高中枢は大脳皮質視覚野に移動する。13は視覚の面で言えば、眼球運動(サッケード)の調節や頭の位置の制御を分担する。このように、進化の過程で、下位脳の機能が大脳に代替されていくことを、「脳機能の頭端移動の法則」という。
外側膝状体
視床背側に位置する左右の15は、2本の10の主要な投射部位である。横断面で見ると、それぞれの15では細胞が明瞭な6層構造をなして並んでいる。
15 | 15の各層への網膜からの入力 | 左右の眼と各タイプの神経節細胞からの入力の分離 |
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- 腹側の1,2層の細胞体は大きいので 大細胞層 と呼ばれる。
- 背側の4層は 小細胞層 と呼ばれる。
- 半交叉の結果、15には左右の眼球から、対側視野の視覚情報が届けられる。2,3,5層は同側の網膜から、1,4,6層は反対側の網膜からの投射を受ける。層が異なっても、それぞれの層の対応する部位は、視野の同じ部位から投射を受ける。
- 左右網膜の3・4・5も、それぞれ異なる層の細胞にシナプス結合する。
一次視覚野
15の唯一の主要なシナプス標的は一次視覚野である。一次視覚野はブロードマンBrodmann17野で、霊長類の脳の後頭葉に位置する。この17野は、後頭葉内側面の鳥距離溝(ちょうきょこう)を挟む領域で、その第4層に有髄線維が観察されるため、16とも呼ばれる。一次視覚野を指す用語としては、他に17などがある。
網膜で隣接する部位は、隣接する15に投射する。この網膜部位局在関係は、一次視覚野に投射する15でも保存されている。 | 一次視覚野の下部は、視野の上半分の情報を再現し、上部は視野の下半分の情報を再現する。中心視野の分析により多くの皮質が対応している。 |
視覚野では、特性の類似した細胞が垂直に並んでおり、以下の3つの視覚野の円柱構造(カラム, column)構造がある。
- 18は、同側もしくは反対側網膜からの視覚入力を受けて発達する構造で、成熟動物ではこのカラム内のⅣ層ニューロンは単眼性の投射を受ける。
- 19は、特定の方位を持つ単純な棒状刺激に反応するニューロンのカラム構造のこと。
- 20は、Ⅱ層とⅢ層に見られる色刺激に感受性の高いニューロン集団で、ミトコンドリア代謝酵素活性の高いブロッブ(blob)領域と一致する。