第2回 2019/4/16
DNA複製(Chapter.5,17)
DNA合成反応の基礎
DNA合成は、元の情報となる鋳型鎖がまず必要。ただ、鋳型鎖がただあるだけでは複製は始まらず、ちょっとだけ(18~22塩基程度)相補的なDNA(またはRNA)鎖が付いていないといけない。この短い配列をプライマーという。DNA合成を触媒するのがDNAポリメラーゼという酵素。ここで、ポリメラーゼによる合成は、5'→3'の方向にしか反応が進まない。
校正機能(proofreading)
間違った塩基が入るとまず止まる。一個取り除いて、もう一回伸長。全体だとエラー率は \(10^{-9}\) 以下!!
複製の段階 | 誤りが入る確率 |
---|---|
5'→3'重合反応 | \(1/10^5\) |
3'→5'エキソヌクレアーゼによる校正反応 | \(1/10^2\) |
不対合鎖の選択的修復 | \(1/10^3\) |
全体 | \(1/10^{10}\) |
PCR反応
ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction, PCR)は任意の塩基配列を選択的に増幅でき、試験管の中(in vitro)で反応を行える。この反応は、次の3段階に分かれている。
- 二本鎖DNAを短時間熱処理して2本の鎖に分ける。
- 増幅したDNA領域を囲むように設計した一対のプライマーを過剰に加えてから冷却して、プライマーに2本のDNA鎖中の相補的な配列とハイブリッドを形成させる。
- この混合物にDNAポリメラーゼと4種類のデオキシリボヌクレオチド三リン酸を加え、2つのプライマーからDNA合成を開始させる。
PCRの利点をまとめると、以下のようになる。
- 指数関数的増幅(数時間で1億倍以上)。
- クローニング、大腸菌への導入が不要(プラスミドベクターに制限酵素を使って入れる…とかがいらん)。
- ゲノムの中から特定の領域を選択的に増やすことも可能(プライマー配列の情報さえわかれば良い)。
- かなり感度が高いため、侵入してきた病原体の感染のごく初期の検出や、法医学の分野にも応用が効く。
- 面白い応用としては犯罪捜査が挙げられる。ある染色体の長さが人によって異なるため、そのパターンを指紋のように使う捜査方法もある。
PCR法の中核を成しているのはもちろんDNAポリメラーゼであり、伸長中のDNA鎖の3'末端にヌクレオチドを付加していくのだが、その際に合成を開始できる3'末端を提供する短い塩基配列であるプライマーを必要とする。
細胞内でのDNA複製反応
DNAプライマーゼ
>ラギング鎖って"Ragging"だと思ってたわ。"Lagging"なんだね。
リーディング鎖では、複製開始時にだけプライマーがあればよい。一方ラギング鎖側では、DNAポリメラーゼは短いDNA、すなわち岡崎フラグメントの合成を終える(数秒)たびに、鋳型の前方の離れた場所で新たに断片の合成を開始しなければならない。
この時DNAポリメラーゼが必要とする塩基対形成したプライマーを作るにはDNAプライマーゼ(DNA primase)と呼ばれる専用の酵素があり、リボヌクレオシド三リン酸を素材として短いプライマーRNAを合成する。このプライマーは真核生物では長さが約10塩基で、ラギング鎖上ので100~200塩基の間隔で作られる。
ここで、プライマーとして除去が不要なDNAではなく除去が必要なRNAを使う理由としては、新しい鎖を一から作り始めることのできるDNAプライマーゼが、DNAポリメラーゼに比べてミスを起こしやすいから、と考えられている。RNAを使うことで取り替えるべき"怪しいコピー"として認識させている。
DNAリガーゼ
DNAプライマーゼが作ったプライマーRNAの末端には正しく塩基対を形成したヌクレオチドの3'-OH基があるので、DNAポリメラーゼはここから岡崎フラグメントの合成を始められる。岡崎フラグメントの合成は、その前に合成されたDNA断片の5'末端にあるプライマーRNAにぶつかるまで続く。その後プライマーRNAは除去されてDNAに置換され、酵素DNAリガーゼ(DNA ligase)が新しいDNA断片の3'末端と1つ前の5'末端をつなぎ、全過程が終わる。
ラギング鎖におけるDNA断片の合成 | DNAリガーゼの触媒反応 |
---|---|
DNAポリメラーゼ
- 原核生物 バクテリアの大腸菌は5種類ある。 大事なのは以下。
名前 | 役割 |
---|---|
Pol Ⅰ | DNA修復に関わる。5'→3'と3'→5'の両方のエキソヌクレアーゼ活性を持つ。 |
Pol Ⅱ | 損傷DNAの複製に関わる。3'→5'エキソヌクレアーぜ活性を持つ。 |
Pol Ⅲ | DNA複製に関わる中心的なポリメラーゼ。3'→5'エキソヌクレアーぜ活性を持つ。 |
- ヒト(真核細胞)には15以上のDNAポリメラーゼがある。 大事なのは以下。
名前 | 役割 |
---|---|
Pol α | 最初はプライマーゼとしてRNAプライマーを合成し、その後DNAポリメラーゼとして働く。およそ20塩基ほど合成するとPolδないしはPolεに交代する |
Pol β | DNA修復に関わる。 |
Pol γ | ミトコンドリアDNAを複製する。 |
Pol δ | ラギング鎖でのDNA複製に関わる中心的なポリメラーゼ。効率が良く3'→5'エキソヌクレアーゼ活性を持つ。 |
Pol ε | リーディング鎖でのDNA複製に関わる中心的なポリメラーゼ。効率が良く3'→5'エキソヌクレアーゼ活性を持つ。 |
Pol η,ι,κ,ζ・Rev1 | 損傷乗り越え複製に関わる。 |
DNA複製に関わるその他のタンパク質
名前 | 役割 | fig |
---|---|---|
DNAヘリカーゼ(DNA helicase) | ATPを加水分解したエネルギーを元にDNAの二本鎖を開裂する。 | |
Sliding clamp(留め金)=ヒトPCNA | DNAに沿ったポリメラーゼの素早い動きを妨げずに、複製フォークからの解離を防ぐ。 | |
SSB(単鎖DNA結合タンパク質) | DNAを直接開きはしないが、解けた一本鎖構造を安定化してヘリカーゼを助ける。 | |
DNAトポイソメラーゼ | 複製や転写に伴ってDNAに生じるねじれや絡まりを解消する。 |
なお、上記のタンパク質群は複製フォークのところで揃って働くことが知られているが、具体的な構造はまだわかっていない。
細胞周期あたり1度だけ複製を起こす仕掛け
DNAの二重らせんは非常に安定である。そのため、複製を始めるには、まず二重らせんをほどいて2本の鎖を引き離し、塩基を露出させる必要がある。DNAの複製は、特異的な開始タンパク(initial protein)が二本鎖DNAに結合し、塩基間の水素結合を壊して二本鎖を引き離すところから始まる。なお、この時二本鎖が開き始める場所を複製起点(replication origin)という。
大腸菌
大腸菌のゲノムは環状DNA分子である。DNA複製は1箇所の複製起点で始まり、そこに形成された2個の複製フォークが逆向きに進み、染色体をほぼ半周したところで出会う。
大腸菌にとってDNA複製を制御できるポイントは開始反応しかないため、複製起点への開始タンパクの結合は厳密に調整されていて、複製を1サイクル完遂できるだけの十分な栄養素が得られない限り、複製は開始しない。
また、複製の開始は、1回の細胞分裂の間にDNAが確実に1回だけ複製されるようにも調節されている。複製の開始後、開始タンパクは結合していたATPの加水分解によって不活性になり、複製起点は新たに取り込まれたAヌクレオチドのメチル化が遅れるために"不応期"が生じる。これらのAがメチル化され、開始タンパクがATPの結合した状態に戻るまで、次の複製は始まらない。
真核生物
細菌のゲノムは十分小さいので、2つの複製フォークによる複製終了には30分しかかからない。しかし、真核生物の染色体はこれよりはるかに大きいため、S期の間に複製を完了するためには、複製起点を複数持つ必要がある。
オートラジオグラフィー法やDNAマイクロアレイを使った方法などから、ヒト細胞では、分裂のたびに約3万~5万個以上の複製起点が利用され、ヒトゲノムにはこれよりはるかに多くの複製起点が存在することがわかった。また、細胞の型によって利用される複製起点が異なる。
哺乳類細胞では、複製フォークが動く速さと複製起点の最大距離から計算すると、隣り合う複製起点の間にあるDNAは、通常1時間ほどで複製し終わる計算になる。ところが、実際にはS期は8時間程度続く。
ここから、複製起点は全て同時に活性化されるのではないことが推測される。実際これは正しく、隣接する50個程度がまとまって活性化されることが知られている。
複製起点が活性化される順序は、その起点が存在する場所のクロマチン構造にある程度左右されるらしい。例えばヘテロクロマチンは高度に凝縮しているが、一方のユークロマチンは転写のほとんどが起こる領域で、凝縮度は低い。ヘテロクロマチンはS期の末期に複製される傾向が強いことから、複製の時期とクロマチンの折りたたまれ方との関連が示唆される。
また、細胞周期1回ごとに全DNAを確実に1回だけコピーする上で、複製起点が複数あると、高度な制御が必要だと考えられる。
これは、「ヘリカーゼがまず複製起点に装着され、それが活性化してDNA複製を開始させる」という順序にある。G1期には複製ヘリカーゼが複製起点認識複合体(origin recognition complex, ORC)を形成する。次に、細胞がG1期からS期へと進むと、特定のタンパクキナーゼが働いてヘリカーゼを活性化する。それによって二重らせんが開き、DNAポリメラーゼなど、他の複製タンパクが集合する。
DNA複製の引き金となるタンパクキナーゼは同時に新しい複製前複合体の形成を防ぐので、再び全サイクルへ向けての初期状態に戻るのは次のM期になってからである。それは、リン酸化されることによってORCが新しいヘリカーゼを受容できなくなるのが一員である。
このような戦略により、複製前複合体が形成される機会が1回(G1期)だけ生じ、次の段階でそれが活性化を経て分解される(S期)。細胞周期ではこの2つの状態は共存できず、しかも決まった順序で生じるので、複製起点はどれも1回の細胞周期につき必ず1回だけ発火する。
テロメア
染色体の末端では、ラギング鎖の合成を行うことができないため、この問題に対処する方法がなければ、染色体の末端から、細胞分裂のたびにDNAが減ってしまう。
細菌は、この問題を染色体を環状DNAにすることで対処しており、一方の真核生物はテロメアという特殊な末端構造によって解決している。
テロメアは短い塩基配列が何度も反復したもので、広範囲の生物で互いによく似ている。この構造を維持するのがテロメアーゼという特定のヌクレオチド重合酵素で、これが細胞分裂のたびに反復配列を補充する。また、テロメアは染色体がたまたま切れた時などに誤って修復されないように、染色体の切断末端と区別できる特殊な構造をとっている。
- 染色体末端は、"GGGTTA"という配列が繰り返し並んでいる。
- テロメアリピートは特別なタンパク質によって保護されている。
- テロメアリピートは「テロメアーゼ」によって鋳型非依存的に合成される。
Glossary
Words | Meanings |
---|---|
Leading/lagging strand | |
Okazaki fragment | |
Helicase, MCM helicase | |
Ligase, topoisomerase | |
Replication fork | |
Replication origins | |
Orc | |
Telomere, telomerse |
Quizzes
# | Question | Answer |
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1 | Explain leading and lagging DNA strands. リーディング鎖とラギング鎖を説明せよ。 |
Leading strand is the strand of nascent DNA(新生鎖) which is being synthesized in the same direction as the moving replication fork. This strand is synthesized continuously. Lagging strand is the strand of nascent DNA whose direction of synthesis opposite to the direction of the moving replication fork. This strand is synthesized in short, separated segments by DNA polymerases, and joined together by DNA ligase. リーディング鎖: DNA複製の際に、複製フォークの動きと同じ方向に伸長されていく側の新生鎖。連続的に合成される。 ラギング鎖: DNA複製の際に、複製フォークの動きと反対向きに伸長されていく側の新生鎖。不連続で短い岡崎フラグメントと呼ばれる断片が複数でき、DNAリガーゼによってそれらは連結される。 |
2 | Budding yeast Cdc9 encodes DNA ligase Ⅰ. Inactivation of Cdc9 was found to cause accumulation of nicked DNA. 出芽酵母におけるリガーゼⅠを発現させる Cdc9 の不活性化は、DNAにニックの蓄積をもたらした。 |
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2.a | Explain why nicked DNA was formed. | Because ligase Ⅰ is required for sealing of nicks between Okazaki fragments. ニックを連結する酵素であるリガーゼⅠが生産されなくなったから。 |
2.b | Assume that there is an active DNA replication origin at the middle of the chromosome region of interest. Indicate where we could observe DNA nicks. | Where the Okazaki Fragment is in both strands. |