第9回 2019/6/12
- 講師:正井 久雄
Fluorescent Proteins
自然の蛍光性タンパク質(FP)を生成する生物も存在するため、研究者はこれらのタンパク質を蛍光顕微鏡観察のツールとして用いる技術を開発した。こうしたFPは、特に生細胞イメージングに役立つため、経時的顕微鏡動画撮影を実施して細胞の中でターゲットがどのように機能しているかを見ることができる。
FP遺伝子をターゲット遺伝子に融合させることにより、FPは蛋白質マーカーとして取り込まれます。その後、宿主細胞は、永久的に取り付けられた蛍光マーカーを有するターゲットタンパク質を産生します。そのため、蛍光色素をサンプルに添加する必要がない。
細胞生物学のツールとしての有用性が明示された最初の蛍光タンパク質は、緑色蛍光タンパク質(GFP)であった。
Fucci
Fucci(Fluorescent Ubiqutination-based Cell Cycle Indicator: フーチ)とは、
- 細胞周期の進行を"リアルタイム"に観察できる蛍光プローブ。
- 細胞周期の特定の時期にのみ存在するGemininとCdt1という2つのタンパク質に、それぞれ緑色とオレンジ色の蛍光タンパク質を融合して細胞周期を可視化できるようにした。
- Geminin: DNA複製のライセンス化阻害因子。S期に、一度複製が開始されたゲノムの複製開始地点へのライセンス化因子の結合を阻害する。M期からG1期にかけて、ユビキチンープロテアソーム系により分解される。(→S/G2/M期に緑色)
- Cdt1: Cdc10 dependent transcript 1. DNA複製のライセンス化制御因子。G1期に複製開始点に局在し、一度複製されたDNAが再複製されないように制御している。G1期に発現量が高いが、S期に入るとユビキチンープロテアソーム系により分解される。(→G1期にオレンジ色)
Rif1 protein
論文の流れに沿って研究を見ていく。(講義中はついていけなかったので、後から調べた。)
- Rif1 is a global regulator of timing of replication origin firing in fission yeast.
- Mouse Rif1 is a key regulator of the replication-timing programme in mammalian cells
真核細胞の染色体複製では、G1期初期に潜在的複製起点に複製起点認識複合体(origin recognition complex;ORC)やMCM(Minichromosome maintenance)複合体が結合し複製前複合体(pre-replicative complex;pre-RC)を形成する。
S期においてこれらのpre-RCの一部は「初期」に、一部は「中期」あるいは「後期」に活性化を受ける。活性化にはCdc7キナーゼが重要な役割を果たすことが知られているが、活性化のタイミングを制御する機構は不明であった。
そこで、活性化のタイミング解析を行うことで、Rif1という進化的に保存されているタンパク質が複製タイミングの制御に中心的な役割をはたすことを見い出した。
動物細胞においてRif1をノックダウンしたところクロマチンループが伸長したことから、Rif1は核において染色体と結合し、その折りたたみ構造に影響をおよぼしていることが想像された。
また、Rif1の結合部位をChip-Seqでゲノムワイドに決定したところ、コンセンサス配列が見い出された。そこには複数のグアニンリピートが含まれており、Rif1はこのグアニンリピートにより形成されるグアニン4重鎖構造に結合することがわかった。
そして、染色体に結合したRif1はその周辺の約100 kbにわたり複製の開始を抑制することが示された。以下は、Rif1とグアニン4重鎖構造を形成したDNAとによる染色体の高次構造の形成のモデルである。
Rif1は遺伝子間領域に存在するグアニン4重鎖構造を形成したDNAと結合し、染色体ファイバー構造をたばね、複製や転写を制御する"クロマチンドメイン"を形成する。このクロマチンドメインは複製の開始に抑制的である。Rif1はホスファターゼであるPP1と結合することにより、複製の開始に必要なリン酸化を阻害する機能もある。
これらの結果から、Rif1とグアニン4重鎖構造を形成するDNAとの相互作用により、複製の開始に抑制的な複製ドメインが構築されることが示唆された。