第11回 2019/7/3
- 講師:大杉 美穂
- 参考書:Molecular Biology of the Cell: Chapter 20
微小管重合中心(5/29の続き)
微小管の重合核形成は普通、細胞内の微小管形成中心(microtubule-organizing center, MTOC)という特定の場所で起こる。
多くの場合、重合核はγチューブリン環複合体(γ-tubulin ring complex, γ-TuRC)に依存して形成される。この環は、13本のプロトフィラメントから1本の微小管を作る時の鋳型となる。
なお、微小管が伸長開始するためには、重合の開始となるγ-TuRCはもちろんだが、伸び始めた微小管が脱重合してしまうのを防ぐためにTPX2, chTOGなどの補助タンパクも必要である。
多くの動物細胞では、核の近傍にそれとわかるMTOCが1個あり、中心体(centrosome)と呼ばれている。とはいえ、重合開始点は他にもあり、以下の3つが大半を占めている。
- 中心体
- 染色体近傍(Ran-GTPase依存的)
- 微小管(Augmin 依存的)
1.中心体
中心体は,動物細胞を含む多くの真核生物において進化的に保存された細胞小器官であり,微小管形成中心として機能する。
中心体には、中心小体(centriole)という円筒構造が1対、L字型に直交する形で埋まっている。中心小体は、修飾された短い微小管が円筒状に整列し、9回対称性の樽状構造になっている。中心小体は、多数の補助タンパクとともに中心小体周辺物質(pericentriolar material)を組み上げており、ここで微小管の重合核が形成される。
2.染色体近傍(Ran-GTPase依存的)
中心体のない植物や卵細胞ではもちろんだが、分裂前期における成熟した中心体周辺物質(PCM;Pericen-Triolar Material)からの微小管形成に加え、核膜崩壊後には分裂期染色体をMTOCとする微小管形成が起こる。
この染色体からの微小管形成にもγ-チューブリンが必須であることが示されており、更に、分裂期染色体近傍での微小管形成には低分子量GTPaseであるRanによる制御機構が重要である。
RanGTPaseの活性化因子であるRcc1は分裂期染色体に結合して存在するため、染色体近傍には活性型Ranが最も高濃度に存在する。この活性型Ranにより様々な微小管制御因子が活性化されることで、紡錘体近傍での微小管形成が促進・安定化される。
現在のところ、Ranによる直接のγ-チューブリンあるいはγ-TuRCの制御については報告がなく、不明である。
3.微小管(Augmin 依存的)
既存の微小管を足場にして新しい微小管を生み出す、微小管依存的微小管生成は、蛍光顕微鏡を用いた間期(非分裂期)の分裂酵母、タバコ培養細胞、シロイヌナズナ細胞表層の高解像度生細胞観察によって見出されてきた。
これらの細胞では、既存の微小管の側面に重合核形成因子であるγ-チューブリンが局在し、そこから新しい微小管が生成される様子が観察された。
なお、ヒト培養細胞では、RNAiによりAugminを阻害すると、分裂期の停止や細胞分裂異常といった重い障害が見られた。
染色体の整列・分配
復習:M期
|期間|phase|内容|
|:--:|:--:|:--|:--|
|前期|prophase|核内:染色体凝縮
核外:中心体成熟・星状体微小管伸張と中心体の分離移動|
|前中期|prometaphase|紡錘体形成
動原体-動原体微小管の双方向性結合の確立
染色体整列運動|
|中期|metaphase|染色体の中期板整列完了
姉妹染色分体間接着の完全解離|
|後期|anaphase|染色体の分配運動|
|終期/細胞質分裂|telophase/cytokinesis|収縮環形成と分裂溝形成
細胞質分裂の完了
核膜再構成と染色体脱凝縮|
「分裂期開始〜中期」から「分裂後期〜間期」へは、脱リン酸化(逆向きはリン酸化)により以下の事象が起こることで移行する。
- 染色体分配(染色体凝縮)
- 核再形成(核膜崩壊)
- 紡錘体消失(紡錘体形成)
- 染色体脱凝縮と核の拡大(染色体整列など)
動原体
体細胞分裂において、正常な染色体分配が起こるためには、複製した姉妹染色体が娘細胞に正確に分配されなければならず、染色体分配に問題が起こると、がん化や先天性異常が生じる。
このとき、動原体と微小管の結合様式には以下のバリエーションが存在し、このうち最も左のAmphitelicが目標とする結合様式である。
この正常な染色体分配において重要な役割を果たすのが動原体であり、両極のスピンドル微小管からの張力を利用してこれを調節する。(2方向性の結合が形成されると動原体と微小管との結合が安定化し、1方向性の結合が形成された場合には張力は生じず、結合が不安定化される。)
なお、二方向性は試行錯誤の産物である。
なお、動原体の基本構造は真核生物においてよく保存されており、約40種類の動原体タンパク質から構成されている。
染色体に働く力
いくつかの機構により紡錘体に付着した後の染色体を前後に動かす力が生じ、正しい付着の安定化に重要な張力が生じている。また、後期には、同様な力により、染色体が紡錘体の反対の曲に分離する。
有糸分裂の時期によって力の強さと重要性は変化するが、以下の3つの主要な紡錘体の力が特に重要であると考えられている。
- 動原体とそこに付着した染色分体を動原体微小管に沿って紡錘体極の方向へ引っ張る力 動原体にあるタンパク質によって作り出される。機構はまだ不明。
- ある種の細胞に見られる微小管の流れ(microtubule flux)
- 極から押し出す力(Polar ejection force/Polar wind)
なお、これらの両方向からの力で染色体を赤道面に向かって移動させる仕組みは、次の実験から明らかになっている。
動原体微小管により一方の極に付着している前中期染色体をレーザー光線で切断すると、動原体のない染色体断片は直ちに極から押し離されるが、動原体が付着したままの断片は極に向かって動く。
コヒーシン
DNAは複製されるとすぐに2本(姉妹染色分体)がコヒーシン複合体によって束ねられるので、バラバラにはならない。