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ゲノム生物学 第5回

第5回 2019/5/24

  • 講師:程 久美子
  • 講義資料

生物の複雑さとノンコーディングRNA

ゲノム配列解読プロジェクトにより、タンパク質をコードする"遺伝子"の数は、下等生物から高等生物に至るまで、大きくは異ならないことがわかった。

生命現象はゲノム情報によって制御されていると考えられているため、我々ヒトの高次生命機能がどのようにして実現されているのかの説明がつかない。

トランスクリプトーム解析によって、ヒトを含む高等真核生物にはタンパク質をコードしないノンコーディングRNA (non-coding RNA)と呼ばれるRNAが多く存在することが明らかになってきた。

これが、生物の複雑さに大きく関与している可能性が指摘されている。

Species Protein coding genes Protein non-coding genes miRNAs
Human ~21,000 ~20,000 1,872
Mouse ~22,000 ~15,000 1,186
C.elegans ~19,000 ? 223
Drosophila ~14,000 ~5,000 238
Arabidopsis ~26,000 ~7,000 298
Fission yeast ~5,000 ? 0
Budding yeast ~5,800 ~670 0
E.coli ~4,300 ~130 0

小分子RNAの生合成過程

例:ショウジョウバエのRNA。 合成経路もRNAごとでかなり異なっているので、よく実験に使われている。

# small ncRNA 働く場所
A miRNA 体細胞
B siRNA 体細胞
C piRNA 生殖細胞

程研究室の研究紹介

RNAiは、「ある遺伝子の特定領域と相同な2本鎖RNA(double-stranded RNA, dsRNA)がmRNAの相同部分を切断する」という現象のこと。

多くの哺乳類細胞では、約30塩基対以上の長いdsRNAが細胞内へ入ると、ウイルスに対する生体防御機構であるインターフェロン応答が誘導され、細胞が死に至ることが知られていた。

しかし、(程先生らが)胚性幹細胞などの限られた細胞系であれば、哺乳類でも長いdsRNAがDicerというRNaseⅢ酵素によってsiRNAに切断され、RNAiが誘導できることを示した。(哺乳類細胞にもRNAiの機能が存在することが明らかに!)

とはいえ、どのような配列のsiRNAでもRNAiを誘導できる訳でなく、RNAiが起こるかどうかはsiRNAの配列に大きく依存しており、以下の4つの条件を満たす必要があることがわかった。

  • ガイド鎖の5'末端がAまたはUである。
  • パッセンジャー鎖の5'末端がGまたはCである。
  • アンチセンス鎖の5'領域にAまたはUが多い。
  • 長いGCの連続配列がない。

上記の条件を満たしているsiRNAがなぜRNAi効果が高いのか?

RNAi効果の高いsiRNAと低いsiRNAでは、上記のような顕著な非対称性があった。

RNAiの実行過程において、siRNAは2本鎖が解けて1本鎖となり、RNA-induced silencing complex(RISC)複合体に取り込まれて標的mRNAと対合する。

ここで、2本鎖RNAのAまたはUの対合は、GまたはCに比べて不安定であり、AとUの対合の方がほどけやすいという性質があるため、効くsiRNAのガイド鎖の5'領域にAまたはUが多いと言うことは、siRNAは非対称的に、ガイド鎖の5'から一本鎖からほどけていくであろうということを示唆していた。

まだまだ話は続いていたが、かなり高度な話であり付いていくのがやっとであった…。詳しくはHPの研究紹介へ。


エピジェネティクスとは

  • 講義資料

エピジェネティクスとは、「DNAの配列に依存せず、かつ細胞分裂を経て引き継がれる遺伝子機能の変化や仕組みおよびその研究」のこと。

DNAの配列が同一であっても、DNAやクロマチンへの化学修飾を通して細胞や個人の形質を変化させる機構があることがわかってきた。

例

  • 2009年 Gene E.Robinson,PNAS イタリアミツバチは穏やかでアフリカナイズドミツバチ(キラービー)は獰猛であった。これは遺伝子レベルでも違いがあったのだが、孵化後に親を変えるだけで真逆の性格になった。
  • 2013年 Tod Fullston, The FASEB Journal 高脂肪食を2ヶ月半与えた雌の子供も67%が肥満になり、さらにその子供にまで遺伝した。つまり、生殖細胞の分子構造にまで影響を与えたことがわかる。
  • 2007年 Steve W Cole, Genome BIol. 社交的グループ(自己診断)と孤独グループ(自己診断)でDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析をしたところ、209/22000遺伝子に差があった。 なお、孤独感を持つと自己診断したグループの人は、炎症に関わる遺伝子78が過剰発現しており、抗体生成や抗ウイルス反応に関わる遺伝子131が発現低下していた。
  • 2013年 Steve W Cole, PNAS 幸福/不幸だと思っているだけでなく、「快楽主義的な浅い幸福感」か「人生に方向性や意味があるより良い人間に成長し、社会貢献できると言う深い満足感」かどうかといった幸福の種類によっても免疫細胞のエピゲノムが変化する。なお、前者は2007年の孤独側と似ていた。

エピジェネティクス制御の分子機構

  1. クロマチン(ヒストン)修飾
  2. ゲノムDNAのメチル化
  3. 機能性RNAによる制御

エピジェネティクスの関わる生命現象

  • 胚発生、細胞分化、神経機能、老化の調節
  • 染色体構造の安定化
  • ゲノムインプリンティング(ゲノム刷り込み)
  • X染色体不活性化
  • 遺伝子量補償
  • iPS細胞に代表される細胞のリプログラミング
  • 核移植によるクローン細胞の作成
  • がんや先天異常などの様々な疾患

1. ヒストン修飾

ヒストンコード仮説とは、「ヒストンの翻訳後修飾部位の組み合わせが遺伝子発現へ影響を及ぼすこと」

ヒストンタンパク質の化学構造によっても、クロマチンの濃縮度が決まると考えられている。

コアヒストン八量体

解説 図
ヒストンの8つのN末端全てが円盤状のコア構造から突き出している。
高分解能でヌクレオソームの構造を調べると、尾部はほとんど明確な構造をもたず、非常に柔軟であると推測される。
リンカー・ヒストンであるH1がヌクレオソームに結合する仕組み

ヒストン修飾

ヒストンのN末端にヒストンテールが突き出しており、その部分に様々な修飾が入っている。次週の講義ではそれらを見ていく。


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Published
May 24, 2019
Last Updated
May 24, 2019
Category
ゲノム生物学
Tags
  • 3S 95
  • ゲノム生物学 2
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