- 講師:樋口秀男
生命体(生物)の一般的定義
生物とは、以下の四つの条件を満たす物質システム
- 自己と外界との境界
- エネルギーと物質の代謝
- 自己複製
- 恒常性
電子 | 分子 | 細胞数 | 整体の階層性 | |
---|---|---|---|---|
$10^{28}$ | $10^{23}$ | $10^{13}$ | ヒト | 意識・運動・代謝 |
$10^{24}$ | $10^{19}$ | $10^{9}$ | 心臓 | 循環・拡散 |
$10^{15}$ | $10^{10}$ | $10^{0}$ | 心筋細胞 | 生理的なリズム単位 |
$10^{5}$ | $10^{5}$ | 筋節 | ゆらぎを制した振動 | |
$10^{0}$ | タンパク質 | 反応のゆらぎ | ||
$10^{2}$ | アミノ酸 | タンパク質の性質の起源 | ||
$10^{0}$ | 電子 | 量子力学の支配領域 |
生命科学を覆う謎¶
- 生命誕生の謎(+生命の進化、分化の謎)
- タンパク質構造の決定と機能との関係の謎
- 細胞が超多種分子(タンパク質、脂質、小分子、イオン、…)の濃度・種類・機能の制御を行う謎
- 個体(臓器、器官等)の構造と機能構築の謎
生命誕生の謎¶
- 元素誕生は超新星の爆発→重金属ができる。
- 現宇宙の元素の割合と人体内の元素比が非常に似通っている。
RNAワールド | プロテインワールド |
---|---|
原始地球上に存在したと仮定される、RNA からなる自己複製系のこと。また、これがかつて存在し、現生生物へと進化したという仮説。 | まずアミノ酸ができ、重合してポリペプチド、さらにタンパク質が作り出され、これが触媒として働いて生命を作り出したという仮説。 |
生命誕生を示唆した実験事実¶
- $\mathrm{CH_3,NH_3,H_2,H_2O}$ を含む気体に放電(落雷を模した)をする。
- 実験2週間後に以下の化合物(アミノ酸)ができた。
- グリシン
- アラニン
- グルタル酸
- 酢酸(脂肪酸)
- 塩基や糖(リボース)、核酸基、RNA、タンパク質なども化学合成可能。
生命基本物質の化学合成が成功した理由¶
- 地球には、エネルギーの高い(海底火山、紫外線、雷、高音)場所と低く安定な場所が共存していたので、分子は高エネルギー環境で合成され、低エネルギー環境で安定化することができた。
$$A\overset{k_1}{{\longrightarrow}}B\overset{k_2}{{\longrightarrow}}C$$
In [1]:
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
In [2]:
def simulate(ax,color,tp,
A=1,B=0,C=0,dt=1e-3,
k1=0.07,k2=0.02,K=1):
time = np.arange(0,100,dt)
As = np.zeros(shape=len(time))
Bs = np.zeros(shape=len(time))
Cs = np.zeros(shape=len(time))
for i,t in enumerate(time):
dA = (-k1*A)*dt*K
dB = (k1*A-k2*B)*dt*K
dC = (k2*B)*dt*K
A+=dA;B+=dB;C+=dC
As[i]=A;Bs[i]=B;Cs[i]=C
if t>tp: K=1e-6 # 温度を下げ、反応速度が1e-6倍になったことをシミュレーション
ax.plot(time, As, color=color)
ax.plot(time, Bs, color=color)
ax.plot(time, Cs, color=color)
if tp<100: ax.vlines(x=tp, ymin=0, ymax=1,linestyle=":")
return ax
In [3]:
fig, ax = plt.subplots()
ax = simulate(ax=ax, color="red", tp=20)
ax = simulate(ax=ax, color="black", tp=100)
ax.set_xlabel("Time")
ax.set_ylabel("RQ")
ax.set_title("Simulation Result")
plt.show()
上記のシミュレーション結果から、$A,B$ 分子を得るためには、途中で(温度が下がるなどの結果)反応速度が下がる必要があることがわかる。
- 生体分子が濃縮され、多次反応による分子合成速度が上がった。
- 地球は巨大で多様な反応槽であったため、合成確率が上がった。
考えられる生物¶
- 地球型炭素生物 地球環境のように水と二酸化炭素(あるいはメタン)が豊富な惑星であるなら、情報記憶(DNA)→伝令(mRNA)→機能(タンパク質、RNA)のような地球型の仕事を分担した炭素生物が生まれる可能性は高い。
- 炭素生物 vs ケイ素生物 常温常圧で安定な炭素ー炭素結合とは違い、ケイ素ーケイ素結合はパイ結合やシグマ結合による二重三重結合を作る傾向がほとんど無く、非常に不安定である。炭素ーケイ素結合は安定なので、炭素生物の中にケイ素が含まれるだろう。したがって、ケイ素生物の存在する確率は非常に低い。
- 金属生物 常温において金属結合が安定であり、分子としての機能を持つことは困難であるため、生物の中心にはならないだろう。ただし、金属イオンや錯体として、炭素生物やケイ素生物に利用されることはありうる。
講義のまとめ
- 生命分子や細胞の種類は多く、構造や機能をどのように理解するかが、生命科学全体の課題である。
- 生命は宇宙の元素を効率よく利用した。
- 地球上の高↔︎低エネルギーを行き交い、多様な環境や濃縮により高確率かつ安定的に生体分子が合成された。これが生命の誕生の確率を大きくした。
- 初めにRNAが合成され、それを鋳型としてタンパク質が合成され、原子生命が誕生したと想像される。
- 系外惑星にも、炭素生命体が存在する可能性がある。
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