- 講師:饗場篤
- 参考文献:Neuroscience: Exploring the Brain, 3rd Edition
- 参考文献:Principles of Neurobiology
- 参考文献:カラー版 神経科学 −脳の探求−
感覚神経系(2)
体性感覚
痛覚
機械受容器に加え、体性感覚は1に強く依存している。1は無髄神経である\(C\)線維と薄いエミリンを持つ\(A\delta\)線維の自由神経終末で、体の組織を受けていることや損傷される危険にあることを伝える。
しかし、侵害受容と痛みは常に同じものではなく、
- 2は 主観的 に感じること。あるいは知覚することである。
- 3は、痛みを引き起こす信号についての感覚系の処理過程を指す。
したがって、1が活性化(発火)しても2は起こる時も起こらない時もある。
痛覚受容体は、侵害刺激によって活性化するイオンチャネル型受容体で、温度に反応する4受容体(TRPV1)が代表例である。他にも、プロトン感受性カチオンチャンネルのASIC(acid-sensing ion channel)等がある。
4は、多くの種類の唐辛子の中にある活性成分で、3の\(C\)線維">5および\(A\delta\)線維">6にあるリガンド結合性イオンチャネルTRPV1を活性化し、\(\mathrm{Na}^{+}\)と\(\mathrm{Ca}^{2+}\)の流入を引き起こし、ニューロンを発火させる。また、4や酸は、TRPV1の活性化温度域を43℃から体温以下にまで下げる可能性があり、そのような条件では体温すら熱い刺激になることになる。(これによって、辛いとhotが結びつく)
一次痛覚と二次痛覚
皮膚の1の刺激は、すばやく鋭い一次痛覚(\(A\delta\)線維">6)と、それに引き続く、鈍く長く持続する二次痛覚(\(C\)線維">5)を生み出す。
- \(A\delta\)線維">6は、危険な強度の機械刺激と熱に応答し、急性で局所的な痛みを仲介している。
- 無髄の\(C\)線維">5は熱や寒冷の他、傷害や組織の炎症によって放出される内因性化学物質によって活性化され、局在していない遅い痛みや慢性炎症性質を仲介している。
痛みの制御
痛み知覚が変化に富んでいることは昔からよく知られている。同時に起こっている痛覚以外の入力の程度や行動している状況に応じて、同じレベルでの痛覚受容器の活性化が、時には強い、時には弱い痛みを生ずる。この痛みの調節に関する理解は、慢性疼痛の治療に対する新しい戦略を勘案するために重要である。慢性疼痛 は、20%にも及ぶ成人を悩ませている。
現象 | 例 | 説明 |
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求心経路での痛みの制御 | 向う脛を痛めた時、その周囲の皮膚をさすることによって、痛みが和らぐ感じがする。 | 向う脛を痛めた時、\(C\)線維を通して脊髄後角にあるニューロンを活性化し、侵害情報が伝えられる。一方で、痛みではない触覚刺激は\(A\beta\)線維を活性化し、脊髄後角にあるニューロンを不活性化し、侵害情報の伝達を 抑制 する。 |
下行経路での痛みの制御 | 兵士や運動選手が、傷を受けながらも明らかに痛みを感じていない。 | 強い情動・ストレス等により、脳が痛みの感覚を抑制。その一つは中脳にある細胞集団で、脳室周囲および7である。ここへの電気刺激は、脊髄後角にあるニューロンを不活性化し、強い無痛覚を引き起こす。 |
アヘンの活性化成分モルヒネ | モルヒネ(オピエート)は癌性疼痛等の激しい痛みに対して劇的な鎮痛作用をもたらす。 | オピオイド受容体が\(A\beta,C\)線維終末からの神経伝達物質グルタミンの放出阻害を行う。 |
温度感覚
- 温度感受性ニューロン(temperature-sensitive neuron)は8と9に集まっていて、これは体温を一定に保つ生理学的な反応に重要である。
- しかし、温度知覚に関与するのは、実際にところは皮膚にある10である。10は温度に対して敏感で、2-5℃の皮膚の温度差を検知できる。
- 温度に関する感受性は皮膚の部位で一定ではなく、温と冷の感覚の部位が異なっている。このことは、別々の受容器が温度情報を変換していることを示している。
- (辛いトウガラシの活性化成分が"温hot"覚の受容器にあるTRPV1と呼ばれるタンパク質の同定に使われたように、)ミントに含まれる活性成分である11が"冷cold"覚を引き起こすことから、メンソールがTRPM8と呼ばれる受容体を刺激しており、一方でこの受容体は温度を25℃以下にすることによっても非痛覚性に活性化される。
視覚系
- 外界で起こっている状況を把握する上で、ヒトにとって視覚機能はその質と量において最も重要な感覚系。ヒトの大脳皮質の約半分が視覚世界の分析に関わっている。
- 末梢視覚系(眼): 網膜上には1億2500万個の視細胞があり、光子エネルギーを膜電位に変換する。網膜は、網膜の異なる部位に入射する光の強さの 差異 を感知する。
- 中枢視覚系: 視細胞からの情報を分析・解釈し、物体の色、形、位置、動き等を抽出する。(ex.色:物理的観点からいえば、この世に色は存在しない。ただ周囲の物体が反射する可視光線の異なった波長スペクトルがあるだけである。脳は、3つのタイプの錐体が検出した情報に基づいて多彩な色を作り出している。)
末梢視覚系(眼)
目の断面解剖
- 角膜には血管はなく、背後にある液体、12により養われている。
- 虹彩の背後にある透明な13は、14に付着した毛様体小体となってこれにより支えられている。13の形が変化することにより、眼は異なる距離の対象物に焦点を合わせることができる。
- 13はまた、眼の内部を多少異なる液体を含む2つの区域に分けている。前述の12は、角膜と13の間にある水のような液体である。13と網膜の間にある15はそれより粘性が高く、その圧力によって眼球は球状に保たれている。
検眼鏡による眼底像
- 瞳孔を通して網膜を覗き見る装置、すなわち検眼鏡(ophthalmoscope)を用いれば、眼を別の視点から観察できる。
- 検眼鏡(ophthalmoscope)で見る網膜で最も際立った特徴は、網膜表面を走行する血管である。これらの血管は16と呼ばれる淡い色の円形部から出ている。この円形部は、視神経線維の網膜からの出口でもある。
- 16は、視神経が結合する部位で、ここから網膜の栄養に重要な血管が出入りする。この部位は視細胞を欠き、盲点となる。
- 網膜の中心部には、周囲に明るい黄色の色調を伴った暗い領域がある。これが17であり、中心視覚を担当する網膜部位である。
- 17には大きな血管が周囲より少なく、中央部に18(くぼみ)があり、ここに視野の中心が焦点を結ぶ。解像度の最も高い視覚像が得られる部位でもある。
網膜情報処理の基本構造
視覚の神経科学、つまり光エネルギーの神経活動への変換についての話に移る。
網膜の情報処理の基本形は以下の図で示されている。
- 19から20を経て21に至るまでが、視覚信号の流れの最も直接的な経路である。
- 21が光に反応して活動電位を発すると、これらの インパルス(活動電位) は視神経を経て脳に伝えられる。視細胞から脳までの直接経路にあるこれら細胞群は、さらに2つのタイプの補助的な細胞の影響も受けている。
- 22は、視細胞からの入力を受けると神経突起を側方に伸ばして周囲の20や21に伝える。
- 23は、20から入力を受けて周囲の21・21・別の23に信号を側方に伝達する。
視細胞の構造:桿体細胞と錐体細胞
桿体と錐体 | 説明 |
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